世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2483
世界経済評論IMPACT No.2483

ロシアの敗北は,ドル支配の敗北だ!

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2022.04.04

 ウクライナ戦争への制裁として,ロシアはSWIFTから排除されたが,米国と欧州から石油の支払いを受けるロシアの銀行には,SWIFT制裁は課されなかった。米国も欧州もロシアの石油や天然ガスだけは買いたい。

 プーチンは欧州がルーブルで天然ガスの代金を払うことを望んでいる。ロシア大統領が,現地通貨での支払いを求めた後,欧州の天然ガス価格は高騰し,ルーブルは上昇する。一回1ルーブル1円を割ってしまったものが1.25円くらいまでルーブルが上がった。

 中国とロシアは最近,人民元を使用して,主に米ドルベースの国際金融システムの外にあるいくつかのエネルギー取引に署名した。ロシアの石油会社ガスプロムネフチは昨年,米ドルの代わりに中国との航空機燃料取引に人民元を使用する,と発表。ここでもドルを使わない決済が問題になっている。

 ロシアがSWIFTからは除外された後,2015年に開始された中国の人民元国際銀行間決済システム(CIPS)は代替手段として役立つ可能性がある。

 2014年のクリミア併合による対ロ制裁を機に,ロシア版SWIFT「SPFS」と呼ばれる組織をロシアは設立した。しかし外国からはカザフスタンなどの数十銀行しか参加せず,代替にはほど遠い。

 中国は2015年には,人民元で決済できる「CIPS」を設立。参加国地域は100を超える。国際金融協会は中露の決済システムの連携を「運用可能なのかは不透明」としつつ,制裁が「ロシアを中国との関係強化へと押しやる無視できないリスクがある」と警告した。CIPSの採用は遅れているが,2021年にCIPSが処理した約12.68兆ドルの取引があり,2020年から75%増加し,現在,103の国と地域に1,280の金融機関がこのシステムに接続している。CIPSというのはこれくらい充実してきている。SPFSとは大違い。

 ロシアの銀行をウクライナ問題でSWIFTから除外することで,中国がCIPSと人民元の両方の利用を大幅に拡大できる可能性がある。ロシアは2019年に中国との間で,SWIFTの代替として新しい国際決済システムを確立する計画を発表したが,北京は本気で関係していない。ロシアと一緒にやるよりも自分のCIPSの方が大事,ということだ。

 中国共産党は長い間,ウクライナを自らのインフラ拡張プログラムである一帯一路のヨーロッパにおける橋頭保と見なしてきた。ロシアがウクライナを占領した場合,この重要な橋頭保を失うことになる。またEUがウクライナでのロシアの侵略に対する中国の支持を,EUと中国の貿易協定に影響することをいとわない場合,習近平はプーチンから距離を置くであろう。つまり,ロシアと中国は本当に仲がいいとは言い切れない。

 だがロシアがウクライナ侵攻に踏み切った2月24日,人民元は過去4年で最高値となった。制裁を受けたルーブルと異なり,ドルと交換できる,ロシアが国際金融市場にアクセスできる逃げ道である。人民元が両国の貿易の決済で使われる比率は2014年の3.1%から2020年の17.5%まで高まった。天然ガスの輸入代金の支払いにも人民元を積極的に使う事で合意。

 なお,サウジアラビアは,中国の石油販売にドルではなく人民元を受け入れることを検討している。これは自国の人権状況のためにアメリカから制裁を受ける,自分もSWIFTから排除された時のことを考えているのではないか。

 米ドルが基軸通貨であり続けられるのは,世界のどの国でもつかえるという利便性で信用を保っているからである。だが金融制裁の乱用はそのドルの信用を失わせる。基礎通貨ゆえに手に入れた金融制裁という「武器」が,逆に基軸通貨としての信用を落としかねない。

 2022年の初め,ブルームバーグは,中国人民元が国際決済市場で4位に達したと報じた。これは驚くべき改善である。SWIFTが国際取引の追跡を開始した2010年に人民元は35位だった。今後数ヵ月にわたるウクライナでのロシアの戦争に対する中国の姿勢は,世界の資金と貿易の流れを再結成し,新しい経済圏の出現につながる可能性がある。

 このように見ていくと,一刻も早くロシアをSWIFTに戻さないと世界が通貨の力で中国に支配されるのではないか。ロシアがSWIFTから排除されたままで徐々に経済的に弱っていくと,結局CIPSを使わざるを得ない。今CIPSが軌道に乗っているように見えるのは,中国の経済が表面上,非常に成長しているからではあるが,中国の人民元というのは不動産バブルの崩壊その他に見られるように実態がない。

 今回のウクライナ危機,ロシアのSWIFT排除,国際金融市場の混乱,それらに基づいて金本位制に戻るのではないか,というようなことを言っている人がいるが,今の世の中でゴールドがどのくらい希少金属として価値があるのか。それに対して石油,食料,兵器,といったものは国家の存立に関わる。それに関してはロシアは国際輸出の20%前後を占める。それの交換のために人民元を使わざるを得ないということになれば,人民元やCIPSの力がものすごく強くなってしまう。

 出来るだけ早くロシアとウクライナとの間で講和を成立させて,ロシアをSWIFTから排除するという制裁から解放する,そうしないと中国に人類が支配されてしまって世界中がウイグルのようになってしまうのではないか。そのような懸念が高いように思われる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2483.html)

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吉川圭一

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