世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2432
世界経済評論IMPACT No.2432

ウクライナ衝突をどう捉えるか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.02.28

 緊迫したウクライナ情勢が注目されている。ロシアはウクライナの北部,東部と南部に10万人以上の兵力を配置し,軍事演習を実施,局地では武力衝突も発生している。本稿は旧ソ連の崩壊による影響から今日のウクライナ衝突の経緯を論じる。ロシアや米・NATO(北大西洋条約機構)側の意見をまとめて検討したい。そして,「ノルド・ストリーム2」の天然ガスパイプラインによる,EUへの安全保障への影響も論じる。

(1)ワルシャワ条約機構の解散とNATO加盟

 ワルシャワ条約機構とは,冷戦期の1955年にワルシャワ条約に基づきソビエト社会主義共和国連邦を盟主として,東ヨーロッパ諸国が結成した軍事同盟である。ところが,1989年の冷戦終結に伴って東欧革命が始まり,1991年3月に軍事機構が廃止され,ワルシャワ条約機構は7月1日に正式解散した。これに続く12月にはソ連も崩壊した。

 1997年以降にNATOに加盟した元ワルシャワ条約機構加盟国(括弧内はNATO加盟年月)は,ボーランド(1999年3月),チェコ(1999年3月),ハンガリー(1999年3月),エストニア(2004年3月),ラトビア(2004年3月),リトアニア(2004年3月),スロバキア(2004年3月),ローマニア(2004年3月),スロベニア(2004年3月),ブルガリア(2004年3月),モンテネグロ(2007年6月),クロアチア(2009年4月),アルパニア(2009年4月),北マケドニア(2020年3月)の14カ国である。いずれも中央集権体制を放棄し,自由,民主主義を選択した国々である。

 要するに,元ワルシャワ条約機構加盟国が解散後,NATOに続々と加盟したことにロシアは不満を抱いているワケである。ロシアの言い分は,冷戦構造で生まれたワルシャワ条約機構に対抗するため組織されたNATOは,ワルシャワ条約機構と同じく解散すべきである。それにもかかわらず,アメリカはNATOの東方不拡大の約束(注1)を反故し,東方に拡大を続け,いわんやウクライナやジョージアまでがNATOに加盟しようとするのはけしからん,というものである。

(2)ウクライナ衝突

 プーチン大統領は安全保障上の3つの要請をNATOとアメリカに提出した。1つ目がNATOの東方不拡大。2つ目がウクライナとジョージアをNATOに加盟させない。3つ目がNATOとアメリカによる非NATOの旧ソ連構成国への軍事協力と軍事基地の配置をしない,である。

 旧ソ連構成国とは,1991年のソ連崩壊時で面積が最も大きいロシアをはじめ,15の共和国があった。この内,バルト三国(エストニア,ラトビア,リトアニア)が2004年3月にNATOに加盟した。元ワルシャワ条約機構加盟国では,ポーランド,チェコ,ハンガリーの3カ国が1999年3月に,ブルガリア,ルーマニアが2004年3月に加盟した。それ以降,ロシアはこれらの国々に影響力を行使することができなくなった。ロシアは元ワルシャワ条約機構加盟国に対し,軍事基地建設や軍事協力を行わないよう要求しているが,ロシアのこれを強制ではなく,あくまで要請として自らの“正当性”を主張している。

 元ワルシャワ条約機構加盟国はロシアの近隣国であり,ロシアの領土と直接的に接する国もある。これらの国にNATOが軍事拠点を配置し,軍事協力を締結することはロシアにとって戦略的均衡が崩れ大きな脅威になることを指摘した。

 ロシアがウクライナの北部,東部と南部の近隣で10万人規模の軍事演習を行った。これによって,ウクライナ情勢の緊張が急速に高まった。2月中旬には戦車などを列車に乗せて撤退させる映像が流れたが,ロシア側の「見せかけに過ぎない」とアメリカ側は断じている。

(3)ロシアの駆け引き手段は石油と天然ガス

 ロシアは今なお軍事大国であるが,その実は「没落した貴族」のようである。1980年代は冷戦時の米ソ対立の主役であるが,1989年にベルリンの壁が崩れ,1991年にソ連が崩壊して以降,“凋落”の一途を辿った。2021年のロシアのGDP(国内総生産)は1.68兆ドルで,世界のGDPランキングは11位と,韓国のそれよりも少ない。現在,ロシアの経済規模はアメリカの7%,ドイツの40%であり,世界の中でも中規模の経済力に過ぎない。今回のウクライナ衝突で,ロシアは“昔の光芒”を見せたが,実力は昔よりも遥かに弱くなった。

 そのロシアが駆け引きで使える手段とは何か。それはエネルギーである。石油価格の高騰がロシアにとっては,利益稼ぎの源である。ロシアの輸出構造を見ると,エネルギー(石油,天然ガス)が約6割を占めている。石油価格の高騰は天然ガスの上昇を牽引し,輸出益増によってロシアの経常収支の改善に寄与している。

 「ノルド・ストリーム2」とはロシア国営企業ガスプロムとドイツ,フランスなどの企業が共同出資する新たな天然ガスのパイプラインである。「ノルド・ストリーム2」の施設は2021年9月に完成したが,稼働に関しては2022年2月現在,ドイツの承認待ちの状態となっている。2011年に完成したのが「ノルド・ストリーム1」のパイプラインで,ロシアからドイツ北岸までに海底経由で連結するルートである。「ノルド・ストリーム2」は基本的には「ノルド・ストリーム1」に沿っているが,天然ガス発掘地の関係で少し離れている。

 ヨーロッパ諸国のロシアの天然ガス依存比率を見ると,EU27カ国の平均は41%であり,ドイツは49%,フランスは22%である。「ノルド・ストリーム2」のパイプラインは約1222キロであり,運営が開始された場合,ロシアからドイツへの天然ガスの輸出量は約2倍に増える。言い換えれば,ドイツのロシア産天然ガスへの輸入依存度はさらに高くなる。EU諸国のエネルギーを全面的にロシアに依存する場合,安全保障には大きな影響を及ぼすようになると,アメリカは警告を発している。

 2月22日,ロシアはウクライナ東部の親ロシア派武装勢力が設けた「ドネツク人民共和国人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認した。これを受けて,ドイツのオラフ・ショルツ首相は,「ノルド・ストリーム2」計画を停止すると表明した。

[注]
  • (1)1990年2月9日にソ連のコルバチュフ書記長とジェームス・ベイカー国務長官との間で,ベルリンの壁崩壊後のドイツの在り方を協議する中で「NATOの東方不拡大」が約束されたもの。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2432.html)

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