世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2377
世界経済評論IMPACT No.2377

「歴史決議」を背負う習政権:「共同富裕」は「共同貧乏」か?

坂本正弘

(日本国際フォーラム 上席研究員)

2021.12.27

 習総書記は,「世界情勢は100年に一度の激変だが(コロナと米国の混乱),中国の政治体制は優位で,勝利した」と喝破する。中国は,顔認証などのIT技術を動員し,強い監視社会を作成しコロナの対応に成功したが,締め付けも強めている。方や,互角ともいえる通商対抗を繰り広げるアメリカは,トランプ前大統領はコロナに敗れ,米国分断を強めた。2021年1月のトランプ派の議会襲撃は,中国での,アメリカ民主主義への蔑視を高めたが,アフガン撤退の不手際もアメリカ衰退の意識を強めた。

 2021年11月の6中全会で,毛沢東と鄧小平のみが行った「歴史決議」を通過させ,習総書記の権威を示した。「歴史決議」では,1921年の共産党創立以来100年にして小康社会を(貧困からの脱却)実現したと誇るとともに,中華人民共和国設立100年の2049年への奮闘目標として,社会主義現代強国の実現を挙げた。「歴史決議」は,習氏の党における核心的地位と習近平思想の指導的地位の2つを確立したが,中華民族の偉大な復興に決定的な意義を持つと強調し,2022年秋の第20回共産党大会での党総書記3選への重要な布石となった。

 2021年春策定の第14次5年計画は2035年を俯瞰し,雇用の維持と革新技術開発の加速を強調した。米中摩擦にも対応し,広大な国内市場における革新技術の自立・独占とともに,世界市場での技術貿易強国を目指す,内外双循環の構想は極めて重商主義的姿勢である。中国は,AI,量子技術,データ収集などで大きな成果を示すが,ドローンの開発などでの,軍民融合の効果は大きい。企業技術は,軍事力に統合され,人民解放軍の戦力を高めている。

 中国の軍事力は2010年代急激に高まった。現在,中国の海軍艦艇は350隻と米軍の300隻を超えるが(日本は140隻),ミサイル技術の充実は世界一級であり,米軍空母の中国への接近を拒否し,太平洋・インド洋での圧力を強める。中国は2035年世界一級の軍事力を目指すが,最近は,人民解放軍成立100周年の2027年に向けての軍事力の更なる充実が強調され,習総書記は台湾統合を繰り返す。Jude Blanchetteは,中国の米国への相対的国力の頂点は20年代だとし,習氏が,これを見越し,台湾に介入する危険があるとする(Foreign Affairs 2021, July/August)

 習氏の最近の「共同富裕」の主張は注目である。中国は,ジニ係数が0.47と大きな格差社会である。鄧小平の先富論の行き過ぎへの咎めといえるが,社会主義の原点から言えば,富の公平が不可欠である。高所得者の調整の対象として,不動産業,教育産業,IT企業があげられる。習氏は,住宅は住むところで,投機の対象ではないとする。恒大集団の破産はその結果だが,学習塾も高授業料のゆえに閉鎖される。いずれも中産階級の負担を軽減する目的だとし,更に,多くの映画俳優がもうけ過ぎと,罰金を科せされ,銀幕から退場である。アリババやテンセントなどのIT企業にも罰金や寄付が強制されるが,その金融への影響やデータ管理など,共産党支配への挑戦を除去する面もある。

 新文化革命とも称せられるこれらの処置は,一見,社会正義だが,国有企業を優遇し,共産党の支配強化の狙いが強い。しかし,不必要に社会緊張を生み,IT企業の活力を損なわないか? かつて,毛沢東は「共同富裕」を唱えたが,「共同貧乏」に終わったが,どうか?

 中国の対外関係についてみると,バイデン政権が同盟関係を重視したためもあって,米日豪印のQUADの活性化,米英豪のAUKUSの結成の他,仏独を始めとする欧州諸国の対中警戒論が高まっており,英,仏,独のアジアへの艦隊派遣と米,日,豪,印との共同演習が目立つ。他方,中国はロシアとの関係を密接にするとともに,アフリカを始め,途上国を動員する。国連とその下部組織は,その舞台であり,国連人権委員会では,中国の香港政策や新疆政策は是認されている。

 冷戦時代の米ソ対立は,ドイツが正面で陸上が舞台だった。米中対立の現在,東アジアが正面で,海洋での対立となるが,日本はその中核にある。安倍元総理は,台湾有事は日本と日米同盟の有事と発言したが,日本は最悪に備える必要がある。2022年秋には新しい国家安全保障戦略が策定され,防衛大綱・中期防が改定されるが,対中関係は中心課題である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2377.html)

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