世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
インクルージョン&ダイバーシティ:この順番が大切な理由
(桜美林大学経営学系 教授)
2021.09.20
ダイバーシティを企業に取り入れ,生かすことの重要性が問われて久しい。しかし,実際にどれだけ多様性が活かされているかについて,筆者はかねてより疑問に思っていた。女性管理職の割合を何パーセントにするとか,女性取締役を登用する,など,ダイバーシティを取り入れる論は盛んであるが,本当に多様性を生かす準備ができているのか,つまり,マインドセットをどうするのかに関して,もっと論じる必要があると思っていた。私自身もここ20年ばかり,“女性初の何々”という役職に就くことが少なからずあったのだが,本当に受け入れてもらえるまでには時間がかかったように思う。つまり,ダイバーシティが先にあり,インクルージョンはその後,人々のマインドが変わったときに可能となる,と実感してきた。
現在,筆者が取締役を務めるアクサ・ホールディングス・ジャパンには,着任当初より,ダイバーシティだけでなくインクルージョンがある,と感じている。当社のCEOを務める安渕聖司氏はインクルージョン&ダイバーシティについて,次のように語っている。
「今,グローバル企業の中で,アクサも含めてインクルージョンを先に持ってくる,つまりインクルージョンをより重視する企業が増えています。というのは,ダイバーシティ(多様性)そのものは目的ではないからです。例えば当社の場合では,多様性は次の3つを実現するためです。
- 1.異なるアイデアがぶつかり合うことにより,新しい組み合わせ,イノベーションを起こす
- 2.様々な属性を持ったタレントが,アクサなら多様性を活かせるということでアクサに来て働く
- 3.既に社会にある多様性を社内に持ち込むことで,多様なお客様をよりよく理解し,よりお客様に寄り添った商品・サービス・アクセスなどを提供する
多様性があるだけでは上記の3つは中々実現しないことが分かっています。そこで必要なのが,“多様性を受け入れて活用する環境やマインドセット”で,これこそがインクルージョンだと考えています。ダイバーシティは明確に戦略的に意味があり,多様性は必要条件で,インクルージョンがあって初めて十分条件が整うのです。従って,アクサでは,インクルージョン&ダイバーシティという順序に変更しています。」
なるほど,アクサにはダイバーシティを生かす環境とマインドセットがあるからこそ,実感として,筆者自身もインクルージョンを感じているわけである。当社では仕事をしていて女性という属性を感じることがないから,とても居心地がいい。安渕氏が言うようにグローバル企業ではこの順番で呼ぶ企業が増えており,実際にアクセンチュアもヒューレットパカードもインクルージョン&ダイバーシティと言っている。
そこで,読者のみなさんが所属する組織を振り返ってみていただきたい。インクルージョンのマインドセットはどの程度,浸透しているだろうか。ご自分自身のマインドはどうだろろうか。一般的に自分がメインストリーム(組織内の多数派)である場合はインクルージョンについて感性が鈍っていることが多い。また少数派であると,逆にセンシティブになりすぎる場合もある。組織としてインクルージョンのマインドセットを育む地道な努力を重ね,同時にダイバーシティを具体的に取り込んでいく。この両者の歩みが伴ってこそ,イノベーションが起こり,真にダイバーシティが活かされるのではないだろうか。
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馬越恵美子
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