世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2101
世界経済評論IMPACT No.2101

技能実習生の苦境と健康から考えたこと

平岩恵里子

(南山大学国際教養学部 教授)

2021.03.29

 日本で働く外国人労働者や大学等で学んでいる留学生も,新型コロナに感染するリスクや健康不安を抱えているのは日本人と同じだ。新聞記事等メディアを追うと,留学生や技能実習生の感染がぽつぽつと報告されているが,感染や失業に対する恐れや帰国できない状況への危機感など,彼らの脆弱性を浮き彫りにした報道も見かけるようになった。そうした中,The Asia-Pacific JournalのSpecial Issue, Vulnerable Populations Under COVID-19 in Japan(September 15, 2020)(注1)に出会った。「技能」在留資格で来日したネパール人やインド人やその家族が直面する状況(失業,言葉,家庭内暴力等),コミュニティが抱える困難さなどに焦点を当てた研究だ。技能実習生については,Bao Quyen Tranさんがいち早くベトナム人技能実習生16名に取材をし,外国人労働者問題の一端を浮かび上がらせていた(注2)。著者によれば,技能実習生の感染が初めて公になったのは,2020年7月8日,熊本において245名のベトナム人技能実習生のうち47名の感染が在福岡ベトナム総領事館から発表された時だったそうだ。私たちは日々「本日の感染者は〇〇人でした」報道に接するが,技能実習生など外国人労働者への関心があったかと言えばうそになる。定期的な報道もない。入国規制によって来日できないために農家などが困っている,という受入れ側の都合に関する報道ばかりであることも,メディア報道を丁寧に追ったこの論文が言及している。

 雇用する企業の都合によって失業する技能実習生も多いはずだが,時折,厚生労働省や法務省への取材で時折報道されている程度のように思う。技能実習生の保護を目的として2017年に設立された外国人技能実習機構(OTIT;Organization for Technical Intern Training)に尋ねてみたところ,2021年1月8日現在で失業している技能実習生は5,666名とのことだった。技能実習生の雇用主は,雇い続けることができなくなった場合,出入国管理庁に受入れ困難に関わる届け出をする必要がある。もし,この届出をしない雇用主がいれば,この数字はもっと多くなる可能性がある。

 先のBao Quyen Tranさんの論文に戻ろう。2020年半ば,技能実習生が抱えていたのは,職場や通勤時の感染への不安,職場での衛生対策の欠如,就労時間短縮や雇用不安から生じる金銭的な苦しさだった。ビザが期限を過ぎてしまったものの,雇用主が延長手続きをしてくれたお陰で就労継続できた実習生がいる一方で,すべての実習生がそうした状況にないことや,何よりも情報へのアクセスが困難なことが大きな課題であることも指摘されている。政府はサポートのためのホットラインを設け,母国語で相談できる窓口を作ったものの,そうした情報が彼らには届きにくい。昨年春の10万円の一律給付は技能実習生も対象となったものの,やはり情報が届かず手続きもかなり複雑だ。その一方で,様々な草の根支援団体が援助の手を差し伸べており,救われている実習生がいることも描かれている。そして,日本政府が実習生に対して金銭,雇用,健康の面でサポート体制を敷いてはいたものの,実際にはその情報が伝わらず,政府の意図と実習生との間に見えないギャップが生まれていたという大切な指摘が印象に残る。実習生の雇用主は彼らを調整のきく低コストの労働力としてしか見ていない,との指摘も重要だ。そして,最も大切な指摘だと思うのは,そうした実習生の脆弱性は今回の新型コロナで生まれたのではなく,そもそも以前から制度が抱えていた問題である,という点だ。

 1990年代前半,ニューヨークに滞在していた折のこと。週末になると,街のあちこちで移民を対象にした法律相談会が移民支援組織によって開かれていた。相談内容には労働問題の他に健康相談やDV(家庭内暴力)を対象としたものもあり,それぞれの分野の専門家が対応していた。当時は「移民とDV? 何の関係が? そこまで関わる?」と思っていた。しかし,これが自国民・移民に関係なく人権問題であることが今は分かる。また,そこで出会った移民支援は一部のボランティアや善意に基づくものでなく,制度として存在しており,米国という国がそこにコストをかけていることを現実として初めて知った。その時の肌感覚は,うまく表現できないけれど,「…」と突っ立ってしまった,というか,ぼう然とした,というか…そんなことを覚えている。日本は他者を含む制度の構築に慣れていない。いや,慣れの問題ではないかもしれない。だから移民政策に舵を切ることができないのかもしれない。

[注]
  • (1)Special Issue: Vulnerable Populations Under COVID-19 in Japan (Table of Contents) | The Asia-Pacific Journal: Japan Focus (apjjf.org) (Accessed 3 March, 2021)。
  • (2)Bảo Quyên Trần. (2020). Vietnamese Technical Trainees in Japan Voice Concerns amidst the COVID-19 Pandemic. The Asia-Pacific Journal, Volume 18, Issue 18, Number 1.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2101.html)

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