世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2079
世界経済評論IMPACT No.2079

開発経済学の発展のモデル:パーキンス他著『開発経済学』

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2021.03.15

 ドワイト・H・パーキンス,スティーヴン・ダディレット,デビッド・リンダウアー,スティーヴン・A・ブロック共著『開発経済学』(第7版)(Dwight H. Perking, Steven Radelet, David I. Lindauer, Steven A. Block,Economics of Development, Seventh edition, W. W. Norton & Company, 2013, 計20章,845頁)は,ハーバード大学関連の教授たちが執筆したテキストである。

 筆者が1996~97年に1年間,ハーバード大学で訪問研究員をしていた時,執筆者の1人がこれの第5版をテキストとして使って授業をしていて,その学部の講義を傍聴した。もともとの第1版はM. Gillisの単著であったが,版を重ね,執筆者が入れ替わりになった。この書籍のキーマンは開発経済学と中国経済論の泰斗のパーキンス教授である。ハーバード大学には経済学部のほかに,国際開発研究所(HIID)があり,多くの専門家を擁した。多くの研究者は国際開発機関で働いていた経験者であり,ある意味で彼らはそれぞれの領域の専門家である。

 HIIDの4階会議室は,本書の著者であり,初代所長でもあるパーキンス教授の名がつけられ「パーキンス・ルーム」と呼ばれている。そこで,毎週土曜日に大学院のセミナーが開催され,ハーバード大学,MIT(マサチューセッツ工科大学),タフツ大学の教員および院生が集まり,最近に掲載された論文を発表した。アメリカの大学で若手研究者を育成するシステムの仕組みに筆者は感服している。これらは日本の大学で1名の教授が院生を育成する仕組みより優れていると考えている。

 本書の第1章「発展のモデル」は,以下を内容としている。

 (1)第1節はマレーシアのラチミナ氏,エチオピアのゲタチュー氏とウクライナのヴィクトルとユリア夫婦という,それぞれ架空の人物が登場して,新興工業国,貧困国と社会主義移行国の3つの典型のパターンを描いている。

 この40年来,世界各国の発展経験は広範囲の多様性を呈してきた。中国,インド,インドネシアを含む大国は,大きな成長と発展を経験した。特にアフリカの国々は,経済の停滞から所得の低減に見舞われた。このテキストから学ぶ核心的目的は,経済発展の差と教訓を理解することである。

 (2)第2節「富裕国と貧困国」では,第三世界,北と南,開発と未開発,先発と後発,先進国と発展途上国,LDCs,後発発展途上国,新興国,工業国ポスト工業国,サービスベースの経済国,低所得国,低中所得国,高中所得国,高所得国,1人当たりの国民総生産,1人当たりの国民総所得などの用語を詳しく説明している。

 多くの異なる用語で貧困国と富裕国を区別しているか,このテキストは発展途上国,低所得国,中所得国などの用語で,先進国と高所得国との比較を行い,所得が低い国を描写している。

 (3)第3節は「成長と発展」で,経済成長と経済発展の2つの用語の違いを説明している。また,所得分配や近代経済成長の概念も説明している。それに,発展による成果の多様性で,過去の40年間,大部分の発展途上国は所得の増加を経験し,持続的な成長を享受した。そのうち,成長が最も速い国々はアジアの中国,インド,インドネシア,韓国,マレーシアとタイである。1970年以降,アフリカ南部の内陸国家のボツワナが世界の中で成長が最も著しい国の1つになり,しかも所得の増加も国民の生活水準を高めた。同時に,ビルマ,北朝鮮,パプアニューギニアのように,いくつかのアジア諸国の成長は非常に緩やかで,甚だしい場合には完全に停止していている。発展途上国における製造業の増加はGDPの増加を凌駕し,その結果,これらの国々は構造的な変化をもたらし,これらの変化は農業の所得と農業の就業者数に占める比率の低下を招いた。後進諸国は多くの他の国よりも緩やかな成長と発展を経験し,所得の年平均増加率は1~2%であった。これらの途上国の所得は停滞か減少し,これらの国々の多くはアフリカ,東欧と中央アジアの移行経済国が含まれている。

 最近の数十年間の低所得国の情況に著しい変化が見られたが,それはヘルスケアの普遍的な改善と教育の普及によるものである。それによって,低所得国の乳児死亡率が大幅に減少した。中所得国において基礎教育が普及し,しかも持続的に大多数の低所得国も状況が改善されつつある。ごく一部の“例外”を除けば,4分の3を超える適齢児童は初等教育を受けている。しかし,発展途上国の世界では10億人を超える人口は,依然として絶対的貧困のなかに生活している。

 今日,世界の12%の人口が低所得国に生活し,1人当たりの所得は1005ドル未満(2010年基準)である。25年前,世界人口の半分以上は低所得国に属していた。中国,インドその他多くの国々は,かつては貧困国であったが,それが経済成長を主導したと考えられた。現在では極貧人口は明らかに減少している。

 経済成長は1人当たりの所得の増加をもたらし,それによって経済発展は健康の改善,教育水準の向上および主要な構造の転換,工業化および都市化をもたらした。一部の国々の経済成長は,大量な鉱産物資源の発掘が寄与したが,依然として伝統的な構造の特徴を抱えている。

 (4)第4節は「発展のアプローチ」である。いくつかの国々がなぜ依然として貧困なのか,1950年代以降の20数年間に,途上国の多くは輸入代替工業化が経済発展の近道だと考えた。1970年代になると,労働集約型技術,所得分配および貧困層に人的基本ニーズ(BHN)の提供は,発展の重要な鍵として広く理解された。単一の要因は低開発を説明できず,単一の政策や戦略も複雑な経済発展を促すことができない。特に近年,経済の急速に発展した国々の経験から,多くの事例を学ぶことができる。

 一般的には,貯蓄を高めて投資の増加を加速するのが基本的な条件である。輸入代替は優れた経済発展が得られるものの,輸入代替がジレンマに陥った時に,輸出志向工業化への転換は途上国の発展に寄与することになる。なぜなら,輸入代替工業化製品は自由市場と比べて価格が大きく歪められると,企業家の創意工夫の意欲が損なわれ,一国の成長を阻害するようになるからである。

 最後に,経済の発展に反する勢力が支持する指導者が統治する国に対し,これらの指導者と彼らの支持者を舞台から追い出すことによって,経済がやっと正常に発展することができる。幸いなことに,大多数の発展途上国の政府が真摯に経済発展の推進を希望していると,この本の著者は主張している。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2079.html)

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