世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2052
世界経済評論IMPACT No.2052

都市ガス産業の進路:選択肢としてのメタネーション・水素・CCUS

橘川武郎

(国際大学大学院国際経営学研究科 教授)

2021.02.15

 資源エネルギー庁電力・ガス事業部ガス市場整備室は,自ら事務局をつとめる形で昨年9月,「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」(在り方研)を発足させた。菅義偉首相が就任後最初の所信表明演説で「50年カーボンニュートラル」を宣言する1ヵ月半以上前のことである。当時はまだ安倍晋三政権下であり,ガス市場整備室の先見の明が光ったと言える。

 その在り方研の第4回会合(20年12月16日)でガス市場整備室は,それまでの議論を整理したうえで50年に向けた「ガスの役割」として,脱炭素化への貢献と高いレジリエンス(強靭性)への貢献との二つに分け,いくつかの論点を提示した。このうち「脱炭素化に資するガスの役割」として取り上げたのは,「熱の利用」,「需要家のCO2(二酸化炭素)削減」,「再生可能エネルギーの調整力」,「再生可能エネルギー以外の電力の脱炭素化の担い手」の4点であった。

 まず「熱の利用」については,産業・民生部門のエネルギー消費量の6割は熱である事実を指摘したうえで,熱の脱炭素化を進めるためには,ガスの脱炭素化に取り組まなければならないとする。その際,ガスの脱炭素化の切り札となるのは,水素ないし「カーボンニュートラルガス」である。後者のカーボンニュートラルガスの調達方法としては,グリーン水素もしくはブルー水素とCO2との合成により天然ガスの主成分であるメタンガスを製造するメタネーションに期待する。そして,最終的には,脱炭素化されたガスと脱炭素化された電力とが熱市場で競争することになると見立てている。なお,グリーン水素とは再生可能エネルギー由来の電力を利用して水を電気分解して作る水素のことであり,ブルー水素とはCCUS(二酸化炭素回収・利用,貯留)と結びつけて生成する水素のことである。

 次に「需要家のCO2削減」については,「カーボンニュートラルガスの活用を通じてガスの脱炭素化を図ることにより,ガスの需要家の既存設備を活用して需要家のカーボンニュートラル化に貢献できる」,と述べる。また,「需要家と一緒になって天然ガス機器を開発してきた経験,ガス体エネルギーを扱って培われたノウハウ,需要家との近さといったガス事業の強みを活かせば,需要家の水素活用拡大において主体的な役割を果たせる」,とも記している。

 さらに,「再生可能エネルギーの調整力」については,ガスが分散型エネルギー供給システムの不可欠なピースとして,地域における再生可能エネルギーの調整力になりうることに注目する。その際,発電面での調整だけにとどまらず,熱の有効利用も期待できると強調している。

 最後に,「再生可能エネルギー以外の電力の脱炭素化の担い手」については,脱炭素化の具体的な実現方法としてCCUS火力,水素発電,アンモニア発電などが考えられるが,「これらの発電はガス体エネルギーによる発電であるため,その担い手としてガスの役割がある」,と書いている。

 以上のようなガス市場整備室の論点整理から,カーボンニュートラル実現へのガス事業の貢献に関して,三つのキーワードが浮かび上がってくる。それは,「水素」と「メタネーション」と「CCUS」である。

 ここで,一つの疑問が生じるかもしれない。それは,「再生可能エネルギー以外の電力の脱炭素化」の実現方法にはアンモニア発電が含まれるのだから,「アンモニア」もキーワードに加えるべきではないかという疑問である。もっともな疑問であり,アンモニアをガス事業の貢献にかかわるキーワードとして取り上げることに,必ずしも反対しているわけではない。

 しかし,現時点では,アンモニア発電の主要な担い手はガス業界ではなく電力業界になると考えている。菅首相の所信表明演説の直前にJERA(東京電力と中部電力との折半出資会社)は,50年までにCO2排出量実質ゼロ化をめざす方針を明らかにした。日本最大の火力発電会社であるJERAがカーボンニュートラル方針を表明したため,菅首相の所信表明演説のリアリティがある程度担保されることになった。JERAは,火力発電用燃料としてアンモニアを使用することによって,カーボンニュートラルを達成しようとしている。当初は火力発電所においてアンモニアを混焼することから始め,徐々にアンモニア専焼に移行しようというのである。JERAは,その適用対象を,石炭火力にとどまらずLNG(液化天然ガス)火力にまで拡大する。このような動きは,他の電力会社のあいだでも広がりつつある。

 アンモニア発電の場合とは対照的に,電力業界は,水素発電に対してきわめて消極的な姿勢をとっている。この点については,本サイトの拙稿「水素社会実現へのボトルネック:電力業界が消極的な水素発電がカギ」(2020年6月22日掲載,No.1785)において詳しく論じたとおりである。将来的には,アンモニア発電の担い手は電力業界,水素発電の担い手はガス業界ないし石油業界という「棲み分け」が進むのではないか。このように考えて,カーボンニュートラル実現へのガス事業の貢献に関するキーワードとして「水素」を取り上げ,「アンモニア」を除外したのである。

 いずれにしてもガス業界は,長期的な生き残りをかけて,メタネーションと水素とCCUSに対して本格的な取り組みを開始しなければならない。その際,二つの点が大切である。

 一つは,大手ガス会社のみがコミットするのではなく,地方ガス会社も含めた業界をあげての取り組みにすることである。もう一つは,とくにメタネーションの社会的実装について,政府や他業界を含めたコンソーシアムをすぐに立ち上げることである。

 都市ガス産業の未来はこれら2点の実行にかかっていると言っても,けっして過言ではなかろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2052.html)

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