世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2003
世界経済評論IMPACT No.2003

日本学術会議を改組せよ

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.01.11

日本の大学の科学技術開発力の衰退

 2003年ころから政府は「緊縮財政」ということで国の教育費予算を削減し始めた。民主党時代の「事業仕分け」を契機にして日本の「研究開発費」が大きく削減された。そして「国立大学法人法」をつくり,独立行政法人の大学に対する運営交付金を削減してきた。政府は,「大学は外部からの研究委託費を受け,公開講座で稼ぎ,大学研究成果を活用し利益を上げなさい」というのである。大学は生きるために金を外から調達しなければならず,外国からも研究資金を工面しなければならなくなった。研究員や助手も減らされ,資金の調達などで,科学技術研究どころではなくなってしまった。こんな中で大学は,金のために,アメリカから軍事関係の技術の研究委託を受け,中国からも金をもらって研究するようになった。最近大学は資金を集めるために「大学債」を発行し始めた。しかし債権はいずれ償還しなければならなくなるが,自分の収入で償還原資を用意しなければならず,大きなリスクがある。これでは大学でまともな科学技術の開発などできないであろう。

 2015年のGDPに対する政府の研究開発費の比率で,日本は0.51%であった。韓国は1%,ドイツは0.82%,フランスは0.77%,アメリカは0.67%。2015年で日本の研究開発費の政府負担比率は,15.41%であった。フランスは34.59%,ドイツは27.98%,イギリスは27.89%,アメリカは24.04%,韓国は23.66%。日本は先進国のなかでは最下位である。日本の研究者一人当たり研究費は,2007年頃は22.9百万円であったのが2011年には20.6百万円,2016年には21.6百万円で停滞している。OECDが調べた2016年の初等教育から高等教育の公的支出のGDPに占める割合は,日本は2.9%と最下位で,ノルウェー6.3%,スウェーデン5.2%,ニュージーランド4.7%,フランス4.5%,イギリス4.2%,アメリカ4.1%などの後塵を拝している。

 「THE世界大学ランキング2021」による調査では,1位のオックスフォード大からサンフォード大,ハーバード大,カリフォルニア工科大学,MIT,ケンブリッジ大,バークレー大,イエール大,,プリンストン大,シカゴ大と続くが,東大は36位,京大は54位になっている。

 このように近年日本の科学技術の研究開発の力が落ち,日本の大学の学力研究力は低下し,日本の産業の競争力も弱体化してきている。最近の日本のノーベル賞受賞者は独立行政法人化以前で研究した人たちである。これから当分日本からノーベル賞受賞者が出ないのではないかと心配されている。あまり日本の技術開発力が劣化すると,中国は,もはや日本には盗み取らなければならないような先端技術は無いと言うかもしれない。

中国共産党の性格

 今中国は,米中戦争の中で,国を挙げて先端技術の開発に力を入れている。中国共産党は「軍民融合」を掲げ,民間技術者に軍事の技術者と同じ意識を持たせて先端技術を開発せよと号令をかけている。中国には「中国国家情報法」がある。この法律により,企業も個人も中国人は自分の持っている情報データを総て共産党に提供しなければならず,共産党が,スパイをして外国の技術を盗んで来いと言われれると,そうしなければならない。中国人が日本国籍をとって日本で研究していても,その人はこの法律による義務からは逃れられないようである。

 中国は大変危険な国である。

先端技術の流出

 中国は他国の技術を得るために他国の学者をリクルートしたり買収することをやってきている。日本の技術が中国に流れている。日本の半導体産業,家電産業も衰退したので,その日本の技術者が多く中国や韓国にスカウトされ,日本の技術が海外に流出してしまった。日本の技術流出という点では,中国に進出している日本企業が生産・開発活動しているなかで中国に技術を吸い取られている。そしてサンヨー,シャープ,東芝,パナソニックなどの日本企業は技術を持っているが利益の上がらない部門を中国に売却してしまい,日本の技術が中国に流れてしまった。

 世界の技術者は,中国科学技術協会などから金をもらい兵器になる技術の研究をしていると言われており,日本の技術者も中国の「千人計画」(もはや「万人計画」と言われている)によってスカウトされ,カネをもらい中国のために研究をしているという。アメリカのハーバード大の化学・化学生物学部のチャールズ・リーバー氏が中国の「千人計画」から資金を得ていたということでアメリカ政府により逮捕された。

 核兵器が開発され,多くの国が核兵器を保有してから,戦争の様態が変わってきた。抑止力として核兵器であるが,これは実際には敵も味方も使えない。現在では「サイレント・インベージョン」になり,サイバーアタック,先端技術開発競争,経済制裁戦争になってきた。中国の「超限戦争」「サイレント・インベージョン」には「サイバー攻撃」,「外国先端技術の盗用」,「千人計画」などあらゆるものが含まれている。中国はこれで日本を侵略している。日本は中国のこの「サイレント・インベージョン」を迎え撃つような技術と防衛体制を持たなければならない。

日本学術会議はどうすべきか

 GHQが造った「日本学術会議」の目的は,今や意味のないものになった。この日本学術会議を一旦解散して,新しい組織として「日本学術研究会議」というような名前で,スタートさせるべきだ。これまでは政府から金をもらい,政府の中の一機関であったので,日本学術会議の会員の学者は国家公務員であった。公務員であれば時の政府の意向に沿わなければならない。

 学問の自由という点でも,政府の機関の一部になるのではなく,産業界からスポンサーを募り,独立した民間組織として「日本学術研究会議」を創り,日本の学問,科学技術の発展を促進するように活動してもらいたい。そうなっても会員の学者も日本という国籍を持っているのであろうから,日本の国益に反する行動はとれない。日本社会の発展のために動いてもらう。

 政治は,学門のなかに手を突っ込むことはしてはならないし,「学問の自由」を阻害してはならない。政府は忖度するような「御用学者」をつくらないことである。さもなければ「経済政策」,「科学技術開発政策」を誤り,日本経済をおかしくしてしまう。25年間もデフレが続いているのは,政府が集めた「御用学者」のためである。

 「日本学術研究会議」は,単なる名誉職ではなく,「大きなイノベーションを興して,日本経済を発展させる」ことが使命であると考えてもらいたい。そのためには日本政府は教育に大きなお金を投入し,大学が先端科学技術の開発に専念できるように,「独立行政法人制度」を廃止し,教員数を増やし,運営交付金を適正なものにしなければならない。これが菅首相のする仕事である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2003.html)

関連記事

三輪晴治

最新のコラム