世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1994
世界経済評論IMPACT No.1994

日本学術会議問題

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.12.28

6名の学者の任命拒否

 10月6日,菅首相は日本学術会議が推薦した会員105名のうち6名に対して任命拒否をしたことが分かった。しかし,菅首相はどのような理由でこの6名の学者の任命を拒否したかを説明しない。菅首相は,任命の判断基準として「総合的・俯瞰的な活動」という訳の分からない言葉を繰り返している。また菅首相は「6人の学者を除外する前の推薦者名簿は見ていない」と変なことを言っている。しかし政府が,問答無用で6人の学者を拒否すると,日本の学問の自由が犯されることになる。

日本学術会議とは

 1948年アメリカのGHQが「学術研究会議」という名前で発足させた組織が,翌年7月に「日本学術会議」という名称になった。その目的は「科学の向上発達を図り,行政・産業及び国民生活に科学を繁栄浸透させること」であるが,GHQの本当の目的は,日本が二度と戦争しないように,そして兵器を造るような研究を禁止するため,日本の学術研究者の行動を自制することであった。

 「日米安全保障条約」は日本が二度とアメリカに刃向わないようにコントロールする「瓶の蓋」であるとキッシンジャーは言っていたが,この「日本学術会議」も日本に兵器を作らせないための「瓶の蓋」であった。その目的のためにGHQは他にもいろいろの組織を日本に造った。日本学術会議は,大学が兵器になるような技術の研究をしないという誓約書であった。アメリカは,日本に兵器を作らせないで,アメリカの兵器を購入するように強制してきた。日本の大学は一応GHQの指示に従い,日本政府もアメリカの押し付ける兵器を購入してきた。

 日本学術会議は日本政府から毎年10憶円程度の金をもらい,日本政府から諮問されたことに対して答えるし,自らも政府に対して提言をしている。しかしあまり価値のある提言はしていないようだ。最近の提言は,「東日本大震災後の復興増税」,「レジ袋の有料化」,「国際リニアコライダー計画への反対」などである。経済政策についても「緊縮財政政策の強化」を提言している。この提言は日本の国にとってあまり価値のあるものではない。「会議」が出した「緊縮財政強化」などの経済政策提言も適切なものでは無かった。そのために日本経済はデフレが続いて,衰退してきている。

 最近分かったことは,日本学術会議は,2015年に中国人民解放軍の傘下にある「中国科学技術協会」と科学技術に関して協力し合うという「覚書」にサインした。中国共産党の「千人計画」(外国の技術者のリクルート,買収)に関与している日本の学者が何人もいるという情報もある。日本の大学の先生が北京理科大学で軍事技術を研究しており,中国人民軍の技術者が日本の大学で研究していると言われている。そして日本学術会議のある会員はアメリカの国防省から金をもらい軍事技術の研究委託を受けていると言う。しかし日本の防衛省からの研究委託をある日本の大学が受けようとしたが,日本学術会議がそれを拒否させたという。菅首相は,「除外した6名の問題」ではなく,日本学術会議のこのような問題を是正したいと思っているのかもしれない。もしそうであれば,菅首相はこれをはっきり言わなければならない。

世界情勢の変化

 日米の関係と世界の情勢は,1948年の日本学術会議の発足当時と現在では大きく変わってきている。米ソ冷戦は,1989年11月のベルリンの壁の崩壊,1991年のゴルバチョフのソ連崩壊で,終わった。米ソ冷戦は,自由主義国アメリカと共産主義国ソ連との戦いであったが,これで「共産主義イデオロギー」がこの世から亡くなったと思われたが,最近,中国の習近平が,「マルクス・レーニン主義を全うする」と宣言し,その本性をむき出しにしてきた。アメリカは,その近年の経済力の衰退から,世界の警察の役目を辞めようとしている。ヨーロッパのアメリカ軍を縮小し始め,中東への介入から手を引こうとしている。アメリカは,EU諸国にも,韓国にも「自分で自分の国を守れ」と言っている。日本にも同じことを迫っている。日米安全保障条約の内容が変わることになる。アメリカは日本の集団的自衛権を認めているし,トランプは,現在の日米安全保障条約は「アメリカは日本を守るが,日本はアメリカを守らない」のはフェアーではないと言っている。

 中国は,共産主義の本性をむき出して,他国に手を出し,侵略している。南シナ海,東シナ海,尖閣諸島をわが物にしようとし,一帯一路でアフリカまで支配しようとしている。中国の習近平は。世界中を共産主義にして,全てを中国の支配下に置くことを最終目標にしている。そのために「超限戦」を繰り広げ,世界を侵略している。トランプはその中国を叩いているが,日本も中国の侵略を阻止し,自分で自分を守る体制を取らなければならない。GHQが造った「日本学術会議」の目的は,今ではずれてしまっている。

科学技術の「無記」

 科学技術は「三性の理」の中にある。物事には善悪両面がある。善でもない悪でもない,「無記」という存在である。それを善にするか悪にするかは人間次第で,倫理の問題である。科学技術は使い方により善にも悪にもなる。「先のとがった鉄のへら」という「刃物」は,外科手術用のメスになるが,ヤクザが人を殺すためのドスにもなる。原子力科学も平和的な原子力発電になるが,人を殺す原子爆弾にもなり,核弾頭ミサイル,原子力潜水艦にもなる。

 アメリカ,EUなどでは,実際には国の研究所,国防技術研究所などで開発された先端技術を民間市場で民生品に適用し,使用している。アメリカのARPA(国防高度研究計画局),DARPA(国防高等研究計画局),SBIR(中小企業技術革新研究)そしてアメリカの諸大学は,軍需兵器を目的として開発したものを,民間産業に渡し,市場のために使う。インターネット,GPS(位置情報システム)はアメリカの軍が開発したものである。アメリカ政府,DARPAなどが,先端技術の開発に政府が支援する際「隠れた産業政策」として実施した。アップルのiPhoneのいくつかの要素技術はDARPAが開発してものである。「高速フーリエ理論の基づくDSP」,「ハイパーテキスト移送プロトコール」,「移動体通信ネットワーク」,「クイックホイールナビゲーション技術」,「マルチタッチスクリーン技術」,「シリ(発話解析・認識インターフェース)」などである。

 大型の科学技術の開発は大きな資金が要るので,民間の大学,企業の研究所では困難なものがある。そして大型の科学技術の開発は,成果が出るかどうか分からない,失敗するかもしれない。こうしたものを国がリスクをとって開発するのが欧米のやり方である。日本の政府は全くその気はない。菅首相には,これを国がやるようにアレンジしてもらいたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1994.html)

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