世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1986
世界経済評論IMPACT No.1986

コロナ危機とRCEP合意後の東アジア発展の行方

清川佑二

((一財)国際貿易投資研究所 参与)

2020.12.21

1.コロナ危機の勝者は中・越2共産国―世界の重心は東アジアへ移った

 コロナ危機の初期には,米国の回復が遅れれば中国の影響が世界に広がるだろうと伝えられたが,もっと大きな世界的変動が明らかになってきた。

(1)中国とベトナムの2共産国がコロナ禍の勝者

 IMFの世界経済見通し(10月発表)では,先進国は今年はマイナス成長,2021年になっても低成長のため19年水準に戻れない。これに対して中国は今年1.9%,来年は8.2%成長で,ベトナムも今年1.6%,来年6.7%成長の予測だ。経済成長に関する限り,コロナ危機に対して独裁体制の2共産国は,民主主義国とかけ離れて良好な見通しだ。中国はリーマン危機と今回のコロナ危機下の高成長によって,米国との経済規模の差を著しく縮小する見通しだ。

 なお世界経済の主導国はアメリカだと考えているのは,米国を除けば日本と韓国だけで,すでに欧州では中国が主導国と認識されている(ピューリサーチ調査)。

(2)RCEP実現で東アジアの世界的位置付けが確かになった

 中国だけでなく東アジア諸国はコロナ禍の傷が相対的に軽いために,世界経済の重心はますます経済成長センターの東アジアに傾いた。さらにRCEP合意によって域内全国家が参加する広域FTAが初めて出現し,世界3大経済地帯の欧州,北米,東アジアで,巨大FTAが鼎立する安定した姿になった。原産地証明などルール化が進み,恒久的多国間機構もできることで,域内の経済のさらなる発展と安定が期待できそうだ。

 アジア・太平洋のAPEC構想は当時の日本からは提唱できず,TPPも米国主導だった。RCEPをASEANが中心となって立ち上げたことは,世界の勢力の変化を象徴している。100年に一度の東アジア新通商秩序出現,とまで言われる所以でもある。

2.東アジア経済の発展にあたっての注目点

 RCEP発足で中国の影響が拡大する懸念も言われるが,2019年のASEANの対中輸出依存度は14.3%(他に香港6.5%)で米国依存度13.0%とほぼ同じであり,ASEANは米中とバランスが取れた関係だ。中国の報道は,RCEPは東アジアの経済一体化や産業チェーン,サプライチェーンなどの融合促進に寄与し,また米市場への依存度を減らすと評価している。

 RCEPが今後バランスを崩すことなくASEAN中心主義のもとで順調に発展するためには,次の3点の行方が注目される。

(1)中国の五中全会提案がどの程度に現実化するか

 共産党中央委員会第5回全体会議が採択した「提案」は米国の包囲に対抗し追い抜く意欲を隠さず,イノベーションを核心に据えてAIや量子情報などの技術革新を最優先している。また国内外「双循環」構想は,経済構造を内需主導型に改造する重要提案であり,これが進行すれば中国の輸出も輸入も鈍化,停滞する可能性も想定される。対外直接投資拡大も計画されているが,RCEP域内で中国企業の進出が増加すれば,場合によっては特異な価値観や共産党の企業指導のために社会紛争が生じかねないと懸念する声もある。中国の計画は着実に達成されてきた実績があるので,「提案」の具体的な進展に関心が集まる。

(2)中国は世界とどの程度に協調的姿勢を取ろうとするか

 米欧と中国は,南シナ海問題,香港問題,新型コロナ発生隠匿問題などを巡り対決している。東アジア諸国も領土・領海問題で中国と紛争を続けているが,米中の一方を選択させられるのを慎重に避けている。想定は困難だが,中国が対外姿勢を少しでも修正すれば,国際経済環境は好転しRCEP諸国にも好影響が及ぶ。世界は今後の中国の変化を期待しつつ,深く注目している。

(3)バイデン新政権は東アジアにどれほどコミットするか

 従来,米国は東アジアに足場を築くためにFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)とTPPを提唱したが,トランプ氏もヒラリー・クリントン氏も前回の大統領選の過程でTPP脱退を選択した。米国が自ら撤退したために,米国勢力を東アジアから排除するという中国の長年の念願が摩擦なく進んだうえ,RCEP発足で米国はさらに一段とアジアの通商秩序の部外者になった。

 しかし東アジアでは,米国の存在の確かさが平和と経済発展に影響する。トランプ氏が南シナ海問題で中国を厳しく抑止してきたことを評価し,下野を残念がる「トランプ・ミス」報道もあった。

 バイデン氏は同盟国と協力して中国に厳しい態度を取ると表明したが,新政権中枢にはこの地域に知見の深い人は見当たらない。米新政権が東アジアにどれだけ本気で関与しようとするのかについて,域内ばかりか世界の関心が集まっている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1986.html)

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