世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本版国家衛生指揮センター(NHCC)の設置を:2003年SARSの教訓から台湾が学んだもの
(九州産業大学 名誉教授)
2020.11.23
台湾の新型コロナウイルス(COVID-19)対策が注目されている。
「台湾に学ぶ:新型コロナウイルス対策はなぜ成功したのか」(『世界経済評論』2021年1/2月号,2020年12月刊行)に台湾の新型コロナウイルス対策の成功例を紹介した。
その具体的な成果として,10月31日現在の台湾(人口2360万人)の感染者数は554名で,日本の感染者数の10万835名,東京都(人口1400万人)の感染者数の3万905名,福岡県(人口511万人)の5210名および「ダイヤモンドプリンセス号」の感染者数712名よりも遥かに少なく,感染症対策が成功していることがわかる。
新型コロナウイルスの流行のなか,1月30日に安倍政権の第1回会議が行われ,閣議決定に基づいて,新型コロナウイルス感染症対策本部が設置された。2020年3月26日に,新型インフルエンザ等対策特別措置法第15条第1項に規定に沿って,「政府対策本部」として指定された。それに伴い,設置根拠が閣議決定だけでなく新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくことになった。内閣に設けられた「新型コロナウイルス感染症対策本部」であり,設置場所は東京都内の中央合同庁舎第八号館である。事実上,臨時的な官庁内の施設である。会議の庶務機能は,厚生労働省など関係する機関の協力の下,発足当初より内閣官房が担っている。「政府対策本部」となってからも,庶務機能は引き続き内閣官房が担っている。明らかに日本の場合,事務官僚がリーダーシップを握っている。また,新型インフルエンザ等対策特別措置法に関する事務を担当する国務大臣を設けていた。内閣府特命担当大臣に西村康稔経済再生相を任命した。
台湾の場合,衛生福利部(保健省に相当)傘下の国家衛生指揮センター(NHCC)を設け,感染症のプロが対策を行っていて,今回の台湾の新型コロナウイルス対策で脚光を浴びた。これも感染者を日本よりも低く抑えた「秘密」かも知れない。この「IMPACT」記事と前に述べた『世界経済評論』の論文と合わせて読んでいただきたい。
2003年のSARSの流行時に台湾は大きなダメージを受け,衛生福利部前身の衛生署の担当者がアメリカの衛生省指揮センター(SOC)を視察し,これを真似て設置したものである。これが今回の新型コロナウイルス対策で成功したが,残念ながら台湾のNHCCの「師匠」であるアメリカは今回の新型コロナウイルス対策では世界最大感染者の発生という「悲惨」な結果になった。「弟子」が成功し,「師匠」が失敗したことになった。また,トランプ政権になり,オバマケアを廃止・縮小も影響したと考えられる。本稿はこのNHCCの設置を提言しているが,運営次第で成功するか,失敗する可能性も否定しない。
国家衛生指揮センター(NHCC)の設置
2020年1月21日,台湾の国家衛生指揮センター(NHCC)から中央流行疫情指揮センター(CECC)を立ち上げた。この中央流行疫情指揮センターは常設部署ではなく,感染症の発生都度に,防疫政策の必要に応じて設置されるセンターである。主な業務は感染症の監視,防疫対策の策定および促進,感染症の予防と管理に必要な対策を担当する。
衛生福利部傘下の国家衛生指揮センター(NHCC)は疫病や災害のニーズに合わせて,中央流行疫情指揮センター,生物病原災害応変センターと反生物テロ攻撃指揮センターを設けている。事実上,この3つのセンターは常設の部署ではなく,非常事態が発生した場合,各部会を結合し,中央と地方の作戦指揮基地として設けるものである。今まで「中央流行疫情指揮センター」(CECC)は9回も開設し,他の2つのセンターは開設した記録がない。
この9回の開設は(1)2006年10月のデング熱,82日,(2)2008年6月のコクサッキーウイルス,70日,(3)2009年4月のH1N1新型インフルエンザ,303日,(4)2010年10月のデング熱,72日,(5)2013年4月のH7N9インフルエンザ,374日,(6)2013年8月の狂犬病,146日,(7)2015年9月のデング熱,120日,(8)2016年2月のジカウイルス,359日,(9)2020年1月の新型コロナウイルス(COVID-19)である。
国家衛生指揮センターはアメリカ衛生省指揮センター(Secretary’s Command Center,略称SOC)を模倣して設立したもので,必要とするソフトとハード,空間と関連施設を結合し,国家衛生指揮センターの人員を弾力的に派遣できるメカニズムを構築している。
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