世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1889
世界経済評論IMPACT No.1889

中国の双循環における対外経済関係について

鈴木康二

(元立命館アジア太平洋大学 教授)

2020.09.21

国内大循環

 2021年からの第14次5カ年計画では「国内大循環」による内需主導の発展計画が示されると言う。2020年9月4日付人民網日本語版によれば「「双循環」は,主に国内の大きな循環を主体としつつ,国内と国外の循環が相互に促進し合う新たな発展局面を指す。…中国の経済発展の戦略的重点は輸出主導型中心から内需駆動型中心へと加速的に転換している。…中国国内の大循環を中心にするということは…内需のポテンシャルを発揮させ…国内市場と国際市場を連結させ…力強く持続可能な発展を実現することをいう」とある。

 2020年9月,日経は「強硬中国にどう向き合うか」の題で識者三人の意見を掲載した。筆者は,中国の対外投資・対内投資は,双循環により中国の国益第一主義が,国内では愛国主義,国外では互恵平等の名の下で蔓延るようになる,と見る。一帯一路構想やAIIBといった中国主導の貿易・投資・援助・融資の仕組みは,互恵平等とは言いながら,中国の国益に沿うものになる。国際機関の主要ポストや国連決議・WTO・国際的な技術標準や気候変動枠組み条約と言った国際的な政治・経済・社会の取組とその遂行状況の報告では,中国の発言力強化に沿ったものを互恵平等と言う傾向が高まるだろう。

 互恵平等の名で,ASEAN・韓国といった近隣国,中南米・アフリカ等の途上国・太平洋島嶼諸国そして権威主義的国家は,中国現政権の対外政策に賛成することで,中国政府の援助資金や技術支援ないし中国市場とのアクセス権を得ることになるだろう。自国と無関係の中国の対外政策で中国に賛成しないと,中国援助が得られないことにより,意見を言わせない方策だ。国際公共財を中国に有利な形で使用することを排除するのは困難だ。人道的という名の排除方策が潰えていることは,マスク外交で中国発COVID19の責任を問わない方向にある例に見られるとおりだ。

コミュニティの力

 2020年9月15日付日経の「強硬中国にどう向き合うか・下」を書いたアンドリュー・スモールは「欧州の人々の大半は,中国がグローバルな貿易システムや安全保障秩序に組み込まれるにつれ,自由市場の慣行や多国間関係の規範を学ぶだろうと期待していた。そして経済成長とインターネットの持つ変革力により,中国共産党の権力は弱体化するだろうと考えていた。」と書く。本当にそう思っていたのなら,「論語」は支配の道具として支配者のために書かれていると喝破した江戸時代の儒学者・荻生徂徠の理解水準に達していない。日本の主要都市に対する本土空襲は人道に反するのではないかと疑問を持った米国爆撃機乗組員たちに,上官は言った。「空襲によって甚大な被害を被った日本人民たちは革命を起こして,非人道的なファシスト軍事政権を打倒するだろう。空襲はファシスト政権を倒す日本人民を支援するのだ」。

 価値観の相違と中国に言わせるのは,世界中の大学が語学学校だとして中国政府支援の孔子学院を大学内施設として設置していることも一因だ。孔子は支配のための学問を教えたが,支配される側のための学問は教えなかった。中国が考える民主主義とは,支配する地位にある人・組織が,その支配の正当性を,①その出自が人民を基盤にしていて,かつ②基層組織が大多数の人民の支持を得ている状態を指す。それは③選挙により民意を問う代表制で無くてもよいし,④少数意見は排除してよい。基層組織とは中国では,昔は単位(職場)を指したが,社会福祉サービス提供を国有企業は出来なくなったことと,自営業・民間企業・外資系企業が増えたことで,今では社区(コミュニティ)になっている。基層組織の動員に成功したのでCIVID19を征服できたと中国政府は自信を持った。しかし,コミュニティは,意見を言い合って社会を作っていく場であって上意下達の場ではない。

 米国で黒人に対する警官の暴力が問題になっているのは,米国のグラスルーツ(草の根)民主主義を支えるコミュニティが,多様な人が集まる地域社会としては崩壊したからだ。日本のコミュニティである自治会も市町村役場の指示の伝達組織になっている。ネット・コミュニティは同種の人たちの集まりだからコミュニティではない。IT技術による監視社会を形成する支配の場と化している。

 筆者が,日系企業・日本企業は世界で活動するにあたり,ESG対策を重視した利他性と接続性の経営を有言実行せよと主張するのは,コミュニティと職場で共感を得ることが必要だからだ。中国の互恵平等の名の中国優越主義を採らない事の宣言にもなる。民主主義や人権は西洋優越主義による価値観で,アジア的価値と異なると言われる時代に通用する経営理念だ。カステリオーネ(郎世寧)というイエズス会のイタリア人宣教師は清朝の宮廷画家となり東西美術を融合したと言われている。彼は名人と呼ばれる工匠だが,皇帝に媚びるために芸術家としての自由な精神を失った。自由が無くても融合していればよいとする国々は世界中に広まっている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1889.html)

関連記事

鈴木康二

最新のコラム