世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1866
世界経済評論IMPACT No.1866

都市の集積とフェイス・トウ・フェイス

瀬藤澄彦

(帝京大学 元教授)

2020.09.07

企業集積と創造都市

 メトロポール都市圏がますますコロナ・ショックに対抗するデジタリゼーション化の方向に向かうなかで,多国籍企業の中枢機能が立地する「機能的都市地域」(FUA:Functional Urban Areas)とOECDが定義する都市の立地と集積の空間は,これまではコンパクト都市の経済効果を多分に前提にしてきた。ここから誕生した「コンパクト都市論」はこの流れに乗ったターミノロジーである。「アグロメレーション」(agglomeration)と地理経済学では訳している企業活動の集中的な立地,それが集積を表す用語である。すなわち求心力,遠心力,収穫逓増をパラメーターとする特定地域への集積を理論化した「新経済地理学」の登場によってその正当さを高めようしてきた。

 新型コロナウィルスの感染対策として人と人との接触や交流を制限することは,都心部や研究開発拠点における企業の集積を通じて得られてきた相乗効果を通じて関連産業へのスピルオーバーが期待されにくくなることを意味する。スピルオーバーは,第1に企業内部では,生産現場やオフィス空間においてフェイス・トウ・フェイスのコンタクトを通して相乗効果がプラス・アルファーとして創出される。いわゆるカフェテリア効果である。第2に多数の産業業種の企業が集積することによって,①同一集積業種の地域特化が形成される,②異業種の企業が集積よって都市経済が形成されていく。それぞれ集積の経済外部性,あるいはカフェテリア効果が働くようになる。それは供給面では効率を高め,生産費用を低下させる。企業間コミュニケーションなど新たな可能性が生まれてくる。これに伴い,芸術,教育,スポーツなど文化活動が活発になる。都市が形成されることによって多数のひとびとのニーズに対応するため銀行,保険,不動産,対人サービスなどの企業が立地するようになる。グローバルな都市においては多くの国籍のひとびとが異文化交流を通じてハイブリッドな雑種の創造的都市空間が形成されることはジャック・アタリがその著「新たなユートピア~博愛」やカナダのリチャード・フロリダが著書“creative city”のなかでそれぞれ語っていることである。

デジタル時代のコミュニケーション

 このような創造的都市のなかで各個人は日常生活の行動の内,その7割はコミュニケーションに費消されると言う。読む,書く,話す,聞くによってわたしたちは意思の疎通を図り,情報交換を行い意思の伝達と相互理解を務めている。コミュニケーション・チャネルの態様は情報量の多さと接触で左右されるが,通常,①面前(face to face),②電話,③eメール,④メモ・手紙,⑤書類,の5種類存在するであろう。チャネル情報量の多寡は,①言語か非言語か,②人格的かどうか,によって左右される。コロナ危機にあっては対面のフェイス・トウ・フェイスの接触によるコミュニケーションが忌避されるようになった。2つの点が浮き彫りにされる。M. ポーターの描いた価値連鎖モデルの経営統治の意思決定や政府等とのコンタクトはフェイス・トウ・フェイスの接触は依然として不可欠であり,また官公庁も含めた企業組織体では,有名な命題の通り二者間対話では「35%が言葉のメッセージであり,残り65%が言葉以外」の話し方,動作,ジェスチャー,間の取り方(抑揚・語調)となっており言語以外の比重が大きいのである。あまつさえ日本では目の使い方,注視,慧眼などが意思伝達や交流では重視される。

 このような日本的な経営モデルの基礎を支えていたコミュニケーションができなくなる時代にわれわれはまだ十分に用意ができていないように見える。非言語コミュニケーションのデジタル化が急速に進行するなかで,知識の種類やその蓄積場所をどのように駆使するかは死活問題になるであろう。一橋大学名誉教授の野中郁次郎は,長年の経験や勘に基づく人の頭脳たる暗黙知と対になる概念として紙,電子媒体などの形式知があると指摘してきた。野中は失われつつある日本独特の企業風土の下,暗黙知を形式知にして可視化,共有化を進めることの重要性を挙げている。

 企業にとって内外のコミュニケーションは最重要事項と言ってもいい。企業経営の特徴は,ボタムアップ・コンセンサス型の日本,戦略と執行の峻別が明確なフランス型,労使共同決定型のドイツ,権限移譲型の米国と大きく特徴づけられるが,現実の企業内の制御,命令などの経営管理の仕方によって4種類に分類される。デジタル・コミュニケーションの影響を十分見極めていく必要がある。

近接空間の階層

 人間と文化的空間領域の関係を経営学などでは近接学(Proxemics)と呼ばれる領域が異文化経営比較論で語られるようになった。これによると欧米諸国では人間関係における空間距離はホール理論(Edward Hall)によれば次の4分類に緊密度に応じて近接空間の階層概念に差異のあることが発表されている。①親密空間:15~45cm 抱擁や耳打ち,②個人空間:45cm~1.2m 友人,③社会空間:1.2cm~3.6m 知人,④公共空間:3.6m以上 他者への呼びかけ・講演,である。この内,③の社会空間が企業内や友人との交流の接触に相当するが,コロナ時代においてこの部分のコミュニケーションを果たしてリモート遠距離ワークで代替できるかどうかが問われる。これについてはそれぞれの国・都市のデジタル化の水準と業種別職種別の対人対面必要度に左右されるであろう。この空間概念は建築,デザイン,公共輸送,都市インフラなどで実際に採用されている。

 OECDが計測した世界の都市別遠隔コミュニケーション可能性調査によると,ルクセンブルグ,英国,スウェーデン,スイス,オランド,デンマークではリモート・ワーク可能率が40%を越えるが,OECD25カ国平均では約34%である。都市別ではロンドン,ストックホルム,パリ,ベルギー・ワロン・ブラバント,プラハなどが50%を越える。このような違いは産業構造の相違に基づくところが大きい。

在宅勤務とフェイス・トゥ・フェイス

 2020年度通商白書は米国シンクタンクのブルッキングス研究所の研究「在宅勤務とフェイス・トゥ・フェイスの業種」を引用して,次の4つのカテゴリーに分類している。①在宅勤務が容易で対面での交流が絶対ではないような専門的,科学的,技術的な役務サービスは自宅から提供可能な業種,②在宅の勤務や学習が可能で対人接触がなくても済ませられる教育,金融保険,③対面接触は不要だが在宅勤務ができない運輸倉庫,鉱業・採掘,製造,建設,農業,行政サービス,公益団体などの業種,④他方ホテル業や飲食店業,小売業,不動産,公共サービス,医療,芸術娯楽など業種は対面での交流の必要性強く,在宅勤務が難しい業種,と分類している。今後は対面接触をしなくてすむような業種,あるいはそれを可能にするような技術革新を一層,進めていかなければならない。しかし実はビデオ会議を導入する企業は今回のコロナ感染前の時より普及が進んでいた。とくに出張を代替するオンライン会議は2020年になり急増している。ZoomやSkypeの利用は目覚ましいものがある。

 いずれにせよ,ドナルド・コースの取引コスト論に即して言えば,企業は今後,自社からアウトソースする業務と,逆に自社内部に取り込む業務の選別を一層迫られるであろう。それをグローバルな取引においてバリューチェーンの見直しをするなか,オフショアリングとグローバルソーシングをどのように使い分けられるであろうか。難しい課題である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1866.html)

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