世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1838
世界経済評論IMPACT No.1838

街から銀行の支店が無くなる日

伊鹿倉正司

(東北学院大学 教授)

2020.08.10

 最後に銀行の支店を訪れたのはいつだろうか? 記憶をたどってもはっきりと思い出せない。そもそも,これまでの人生で銀行を何回訪れたのであろうか…。

 近年,収益力の低下,高止まりする経費率,勢いを増すフィンテック勢などを背景に,銀行の支店再編の動きが加速化している。2020年5月20日,三菱UFJフィナンシャル・グループは,グループ傘下の三菱UFJ銀行の支店数を2023年度末までに300店舗程度に減らす計画を明らかにした。みずほフィナンシャル・グループも今後段階的に支店を減らしていき,2024年度までに130店舗の削減を目指す予定である。支店再編の動きは大手銀行にとどまらず,地方銀行も今後2~3年程度で平均20店舗程度の削減を目標に掲げており,現在全国で1万2千店舗ほどある支店は,2020年代末には1万店舗を切ってくるものと予想される。

近年の支店再編の特徴

 近年の支店再編の特徴としては,次の3点が挙げられる。第1は,店舗名を残しつつ別の支店と建物を統合する「店舗内店舗」の活用である。店舗内店舗は,1990年代から2000年代初頭に行われた都市銀行間の合併において,顧客の口座を旧支店名のまま残すことで顧客利便性の低下抑制等を図った手法であったが,最近では特に地方銀行を中心に店舗内店舗による支店再編が行われている。

 第2は,店舗の軽量化である。2010年代以降,収益性の低下が顕著になる中,銀行は個人顧客・法人顧客双方に対応できるフルバンク店舗の強化に注力してきたが,情報通信技術を活用したバックオフィスの集約化により,最近ではフルバンク店舗から機能特化型店舗への転換を進めている。具体的には都市部を中心に,個人向けの資産運用や保険販売に特化した店舗,住宅ローン専門店,法人営業に特化した店舗を増やすことで,経費削減と行員の専門性の向上を図っている。

 第3は,証券会社や同業他社との共同店舗の設置である。前者については主に大手銀行がグループ傘下の証券会社との間で,後者については首都圏に進出した地方銀行の間で行われている。特に地方銀行間での共同店舗の設置は,金融庁が2018年に改正した監督指針において,お互いの顧客情報の保護を前提とした共同店舗の設置に積極的な姿勢を示したことから,業務提携の一環として行われている。

支店がなくなる日

 これまでの話は,いわば銀行の事情による支店再編であり,顧客(特に個人顧客)が望む支店再編とは言い難い。支店の来店客数は,この10年で3~4割程度減少した。その主たる原因として,インターネットバンキングの普及やスマートフォン決済に代表されるキャッシュレス化の進展が挙げられるが,果たしてそれだけの理由で来店客数が3~4割も減少するものだろうか。

 銀行も顧客もみんな分かっている。コンクリート造りの重厚な建物,中世の城壁を彷彿とさせる窓口カウンター,アメリカンフットボールのフォーメーションのような行員の配置など,とてもサービス業とは思えない独特の雰囲気にも原因があると。

 最近,一部店舗ではあるが,窓口カウンターを無くし,タブレット端末で現金の引き出しや振り込みの手続きを行うといった次世代店舗が散見されるようになった。また,店舗用途を銀行営業以外にも広げることができる規制緩和により,店舗内にバルや英会話教室,健康カフェなどを併設することで,賃料収入を得るとともに人を呼び込む取り組みも行われている。

 広辞苑では,支店は「本店のわかれ。本店に従属し,その指揮・命令に服する他の営業所」と記されている。今後,支店が支店のままでは大規模な統廃合は避けられまい。画一的な店舗レイアウトや取り扱い金融商品,営業時間などを廃し,本店に従属することなく支店の裁量で店舗運営が行えるようになること,すなわち従来の支店を無くすことが,支店が今後存続できる唯一の道なのではないだろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1838.html)

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