世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1786
世界経済評論IMPACT No.1786

インバウンド・ビジネスとCovid-19

池上重輔

(早稲田大学商学学術院 教授)

2020.06.22

 COVID-19の影響で217の国・地域で渡航制限が行われ(2020年4月末),日本も100か国・地域からの入国を制限している(2020年6月中旬)。このような状況下で世界のインバウンド・ビジネスは大きな打撃を受けている。IATAは今年1年間の航空会社の旅客収入は前年比55%減となる3140億ドル(約33兆6700億円)の減収を予測し,オンライントラベルエージェンシー(OTA)大手のエクスペディアは3000人の従業員削減を発表している。国連の下部組織で観光を扱うUNWTOは各国渡航禁止が12月まで続けば世界の観光客数は最大で78%減少し,観光産業は約130兆円の損失になるという予測を発表した。そして,WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)は2020年に旅行業界で1億以上の雇用が失われる可能性があると分析している。

 日本では観光産業の主要な担い手の多くがインバウンドの需要回復には1年半から2年はかかるので,まずは観光の近隣需要の掘り起こし,そして国内観光需要の喚起,その後のインバウンドというプロセスを主張している。確かに,COVID-19の動向は流動的で経済の先も見通しにくい現時点は,いかに生き残るかに注力する必要があり,そのため近辺の顧客は重要である。密節なコミュニケーションの可能な近隣の顧客に注力をする中でまた新たな視点が得られる可能性もある。

 しかし,同時に将来のインバウンド需要に向けて何らかの備えを蓄積しておくことも意識しておく必要はないだろうか? 企業再生時には大胆なリストラを含む生き残るための業務が大半を占めるが,同時に将来の希望となるネタもどこかで同時並行にしておく必要もあると言われる。COVID-19は日本のインバウンドには今後追い風になる可能性もある。COVID-19後の消費者は旅行先選択においてSafety(安全),Security(安心),Cleanliness(清潔)といった要素をより重視する可能性が高く,世界経済フォーラムの5月の調査(注1)でもそうした消費者心理の傾向が提示されている。日本は伝統的に安全・安心のイメージは高く,JETROが中国の消費者対象に対して2018年に行った調査で安全・安心のイメージでは2位のドイツ,3位の米国をおさえて1位であった(注2)。実際の日本のCOVID19における安全度は多様な解釈があり得るが,香港の投資会社のCOVID19で安全な国ランキングでは日本は安全度世界5位とされており(注3),2020年6月の混乱下でのこうしたランキングの信憑性に多少の疑問はあるものの,日本はCOVID19において比較的安全な国との対外ポジショニングは可能であろう。

 海外から日本にCOVID19が持ち込まれる可能性がるので十分な対応策を準備する必要あり,拙速に海外に門戸は開きにくかろう。しかし,少なくとも将来のインバウンド需要の再開に向けてのプロモーションはオンライン等を通じて十分可能である。例えば民泊仲介のエアビーアンドビーが4月にオンライン体験プログラムを始めており,日本からもいくつか参加している。いつか国際観光が再開されるときには外出の自粛中に仕入れた情報が行き先の選択に影響を与える可能性は大きい。日本政府観光局(JNTO)がプロモーションを自粛している間に,海外のいくつかの主要観光地ではオンライン・プロモーションを開始している。ハワイでは,VR(仮想現実)でヘリコプターでの空中散歩や大草原での乗馬などの体験を放映し,ドイツはドレスデンの「世界一美しい牛乳屋」の3D映像をツイッターで投稿したという。工夫次第で様々な海外プロモーションは可能だろう。

 もう一つ重要な要素は日本の悲観的メンタリティをいかに変えるかであろう。マッキンゼーのCOVID-19関係調査では,日本は世界で最もCOVID-19後の経済復興に対して悲観的であるという(注4)。政府の経済支援の在り方には改善余地は多々あるだろうが,先進国の中でも人口当たり死亡率が低くWHOからもCOVID-19対策を高く評価されている日本で経済復興に対して世界で最も悲観的というのはアンバランスではなかろうか? COVID-19後のプロモーションに思いをはせることでこうした悲観的な見方を多少なりとも前向きになることを期待したい。

 さて,筆者は大学の業務の一貫で,ある売上高1兆円程度の当該業界トップ老舗メーカーの幹部研修を担当しているが,本格的に自社戦略課題検討する段階でCOVID-19の影響を受け対面でのプログラムができなくなった。研修メンバーはオンラインで検討を進め,先日社長への中間プレゼンテーションがあった。プレゼンテーション後に社長は,“こうした(リアルに会いにくい)環境で戦略課題の検討は制約もあり大変と思うが,今後はこうした環境下で事業成果を出してゆく必要が出てくる。この研修プロジェクトの進め方自体が,次世代の自社の動き方を指し示すと思って頑張ってほしい”という趣旨の話をされた。トップがこのCOVID19を未来志向で変革に活用しようとしている意図が感じられた。

 すでにそうしたマインドで動かれている事業者も少なくないと思うが,観光関連事業者の皆さんがサバイブしつつ,COVID-19を未来志向で変革につなげられることと信じている。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1786.html)

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