世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1689
世界経済評論IMPACT No.1689

コロナ問題への対応と今後の展開

原 勲

(北星学園大学 名誉教授)

2020.04.13

 コロナ問題から派生する経済危機への対応として,世界各国は政府による大胆な財政金融政策の大幅な拡大によって緊急時を凌ごうとしている。特にアメリカは史上最大のGDP(22兆ドル)の10%の財政歳出を決定した。各国は3月25日主要7か国G7の外相会議,26日G20の首脳によるTV会議を初めて実施し,5兆ドル(550兆円)規模の各国共同の対策を取り決めた。これらコロナ対応の世界各国の経済対策から何が見えてくるか。

 第一にコロナショック以前のナショナリズムの台頭,特に経済大国の米中貿易戦争が齎す世界経済の分断危機は回避可能となるのかという問題。これは皮肉にも今回のコロナショックが中国と米国で最も先鋭化していることである。今なお両国はヘイトの避難合戦もみられるが,中国の経験や技術を学ばずして本質的なコロナ対策は不可能である。少なくともG7プラス1(中国)を加えたG8で相互不信が解消し,相互協力体制の重要性が認識されることが出来れば,コロナの不幸を乗り越えた新たな世界経済再生が見えてくるかもしれない。

 第二はトランプ大統領の再選,次のアメリカ大統領がどうなるかである。今アメリカが実施しようとしているコロナ対策はいうまでもなくトランプ氏の構想や行動とは全く異なる。オバマケケアを否定し,NSC(国家安全保障会議)疾病対策チーム解散,CDC(疾病対策センター)世界疾病予防予算8割削減,パリ協定脱退等を実行してきたトランプ氏自身がどう変わるのか,それらが選挙でどのような評価がなされるのか。これは先述した第一の課題と直接連動する。

 第三は世界のリーダーシップに国連が本当に寄与出来るかの問題がある。国連は第二次大戦の反省に基づき世界平和と格差なき公正な世界を実現することを目指して設立された連合組織である(国家の利益を反映する可能性のある連邦組織ではない)。今注目したいのは今回の世界的感染症である新型コロナの蔓延で中心的な活動を果たすWHOは,FAO,WTO,等々数多の国連傘下の国際機関のひとつである。いずれも国連憲章に基づき国連の理念の下で専門的な分野を担当するがそれぞれの加盟は各国ごとであり,運営費は加盟国負担,事務局長等トップリーダーは選挙によって選出されている。しかし,国連と同様の連合体であるEUと比較してその公正性はどれほど担保されているのか。ちなみにEUは基本的な理念からCED政策で予算も4割近くは域内で最も弱体の農業政策にあてている。パンデミックのタイミングの悪さや発症国中国への言及の不足等の批判に応えるためにもWTOの位置づけや運営の再検討が今後必要であろう。これは先に上げた他の国際機関も同様である。

 第四は科学技術を実質的に推進する国際的機能の脆弱性である。科学技術の振興は国連憲章に明確に謳われているが,肝心の専門機関はない。WHOも健康衛生に関する研究所も持っているが,肝心の研究者,技術者が脆弱である。分野のノーベル賞受賞者はいない。新型コロナのような新たな感染症に直接対応する人材や体制がほとんど整っていない事が解ったのが今日のコロナ危機の本質のひとつである。一方で科学技術の振興は,今や世界経済の最大の関心事で,国際レベルでも民間団体が運営するダボス会議などが第4次産業革命論などを華々しく提唱しているし,またGAFAなどが先端を行くAI革命などへの対応が最大の話題となっている。ハラルは遺伝子レベルの生理学とIT革命の協同による新たな人類生存戦略を書いているが,コロナワクチンの開発は未定,感染者治療に対応した人工呼吸器,エクモは不足,且つそれらを操作可能な技術者が絶対的に不足している。これは明らかに科学技術開発の方向性が間違っていたことによる。地球資源を究極まで使い切って限界にきた資本主義のみを追求し,人類の生存を最優先するという思想を忘れた科学技術振興の愚かさを一気に改変しなければ,1000年後ならずとも人類はこの世から消えてしまうかもしれない。

 最後に日本のコロナ対策について述べる。先ず日本の国家レベルの政策遂行はコロナに限らないが全て遅すぎる。これは特に現代の政権に見られる危機に対する想像力不足,決断力不足,結果責任認識不足等からきている。最近は危機感が出てきたためか総理大臣の記者会見の機会が増えている(昨日は3月28日)が,会見の骨子は,「現段階では緊急事態宣言を出す状況にはない。長期戦を覚悟する必要がある。経済政策はかってない強大な政策パッケージで実行し,補正予算として4月10日程後にまとめて発表する。新型コロナがいつ終息するかは答えられない。東京五輪の開催には世界が終息していなければならない」などである。これらはこれまで国会論議や記者会見で何度も聞いた話でニュースでもなく新たな政府見解でもない。経済対策に限って言えば世界中が過去の経験では考えられない程の規模で対応しようとしている中で日本はリーマンショックの経済対策は参考にしてもこれとは全く別ランクの発想,特別政府支出が必要である。リーマンショック時の国費支出は15.4兆円である。また経済対策費は三類型であったが,そのうちの生活対策費(国費5兆円,事業費26.9兆円)であった。筆者は国民の全てに生活不安からの解消を齎す生活安定資金として定額給付金はひとつの重要な経済対策と考えるが一世帯10万円とすれば国費支出10兆円となる。これに事業費(債務保証,貸付金の拡大,休業補償等)をいくら見込むかであるが,仮に国費支出金の10倍と設定すれば総額100兆円の経済対策費となる(定額給付金プラス失業手当などの人的補償に対する国費支出合計40兆円)。国費支出は政府が直接的に国民一人一人に払い込むのでこれは日銀券でなく政府紙幣(コロナ対策特別支援金)でも構わなく,一種のヘリコプターマネーで今回は一年程度の期限付きだが,将来ベーシックインカム移行への実験的な意味も持たせる。今のようにマイナス金利もあり,デフレが長く続く時代はこの程度の国費支出は全く問題にならない。日銀券を使わなければ,国債を発行する必要もない。いずれも仮案であるがこれらを新型コロナ特別事業対策として補正予算を早急に決定する必要がある。北海道は財政事情が厳しい小さな財政規模ながら特別対策費として補正予算を議会に提出し,既に議決している。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1689.html)

関連記事

原 勲

最新のコラム