世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1680
世界経済評論IMPACT No.1680

ASEANでコロナウイルス感染急拡大(*)

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員)

2020.04.06

 ASEANでコロナウイルス感染者が急増している。3月26日時点の感染者は5735名,死者は153名だったが,4月7日時点では感染者は2.6倍増の1万4473人,死者は3.2増の496人となった(注1)。感染者数の最も多いのはマレーシアで3963人,死者が最も多いのはインドネシアで221人である。感染の拡大を示す倍加日数(感染者が2倍になる日数)は,フィリピンとミャンマーで7日と最も短い。次にインドネシアが9日となっている。致死率はインドネシアが8.07%と最も高くフィリピンが4.7%で続いている。インドネシアとフィリピンが最も警戒を要する状況にある。日本では,シンガポールがコロナ対策の優等生といわれているが,数値で見る限りベトナムのコロナ対策が最も効果をあげている。ベトナムは感染者が251名,死者はゼロ,倍加日数は15日である。なお,ラオスとミャンマーは公表されている以上の感染者がいると推測される。各国の状況は次のとおりであり,感染防止に向けて厳しい規制が実施されている。

ブルネイは,3月10日にマレーシアからの帰国者の感染を確認した。3月26日の感染者114人が135人,死者1人に増加した。自国民およびが外国人の海外渡航を禁止している。致死率は0.74%,倍加日数は19日である。

カンボジアは,1月27日にメコン川の観光クルーズで3名の英国人の感染者がみつかった。感染者は3月26日の98名から4月7日には117人に増加した。倍加日数は16日である。政府は,シエムリアップの人気観光スポット,全国のカジノを封鎖し,首都プノンペンの学校を閉鎖した。

インドネシアは,3月2日に初めて感染者が確認された。長期間感染者ゼロだったが,3月26日の感染者893名,死者78名から4月7日には感染者2738名,死者221名に増加した。致死率は8.07%,倍加日数は9日である。首都ジャカルタで多くの感染者が見つかり,首都は3月20日から非常事態宣言下にある(4月19日まで)。ジャカルタの選手村が病院(2万2000人収容)に転用されている。4月2日から外国人の入国は禁止されている。中国は迅速検査キット,感染防御衣など40万トンの援助物資をインドネシアに供与した。

ラオスは,中国との国境封鎖とフライトの停止などの対応を取っていたが,3月24日に2名(ホテル従業員と観光ガイド)の感染が確認された。4月7日時点で14人となっている。3月30日から4月19日まで外出禁止,公務員の出勤禁止,食品・医薬品を除く工場の操業停止,出入国禁止など厳しい規制が実施されている。米国はラオスに感染防止のための装備機器などの供与を行った。

マレーシアは,1月25日に感染者が確認された。3月26日の感染者2031名,死者24名が4月7日には3963人,63人に拡大した。致死率は1.59%,倍加日数は12日である。2月27日から3月1日に行われたクアラルンプール郊外での1万6000人規模の宗教行事参加者から多数の感染者が確認されている。3月18日から4月14日まで,全国での移動制限が実施されている。集会の禁止,宗教施設・事業所閉鎖,全教育機関の閉鎖,外国人の入国禁止など厳しい規制が実施されている。王宮のスタッフ7名の感染がみつかり,国王と王妃が検査を受ける事態となっている。

ミャンマーでは,3月23日に米国および英国からの帰国者2名(ミャンマー人)の感染が確認され,4月7日時点で感染者22人,死者1人である。致死率は4.54%,倍加日数は7日である。中国からの入国ビザに続き,3月29日から全ての国に対し入国ビザ発給が停止され,3月30日から国際便の着陸が認められていない。

フィリピンは,1月30日に最初の感染者が確認され,3月26日の感染者707名,死者45名が4月7日時点で3764人,177人と感染者の増加が最も急なっている。致死率は4.70%,倍加日数は7日である。マニラ首都圏は3月15日から4月14日まで封鎖され,往来が禁止されている。外出は食品,薬品および生存に必要な物資購入を除き規制されている。入国ビザ発給停止,米国との軍事訓練の中止などが発表された。

シンガポールは,1月23日に感染者が確認された。隔離命令に従わないと1万シンガポールドル(約70万円)か6か月以下の禁固もしくはその両方という厳しい規制を行うなどコロナ対策と優等生といわれるが,感染者は3月26日時点の683人から4月7日には1481人に増加している。死者は2人から6人に増加した。致死率は0.41%,倍加日数は11日である。

タイは,1月13日に感染者が確認された。3月26日の感染者1045人,死者4人から4月7日には2258人,27人に増加した。致死率は1.2%,倍加日数は12日である。3月26日から4月30日まで非常事態措置が実施されている。バンコクでは,レストラン,マーケット,学校,理髪店,スポーツスタジアム,ゴルフコース,マッサージ店などが閉鎖されている。開店が認められているのは,持ち帰りレストラン,スーパーマーケット,薬局,食品マーケットである。マレーシア,ラオス(Nakhon Panam),カンボジア(Sa Kaeo)との国境(陸路)が閉鎖されている。労働許可証をもたない外国人の入国は禁止である。

ベトナムは,1月23日に感染者が確認された。3月26日の感染者153人から4月7日には251人に増加した。死者はゼロ,倍加日数は15日である。ベトナム航空の国際線運航の停止,インバウンドフライトの停止,ホーチミン市で30名以上規模のレストラン閉鎖などの感染貿委策を実施していたが,3月30日に全土のパンデミック宣言を首相が行った。4月8日,9日にダナンで開催予定のASEAN首脳会議は6月に延期された。

[注]
  • *4月10日に,データ再更新。
  • (1)感染者数は,ASEAN Biodiaspora Virtual Centre(ABVC), “Risk Assessment for International Dissemination of COVID-19 to the ASEAN Region” による。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1680.html)

関連記事

石川幸一

最新のコラム