世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1428
世界経済評論IMPACT No.1428

影さす中国のグローバル化とロシアのポストグローバル化

三輪晴治

((株)エアノス・ジャパン 代表取締役)

2019.07.29

中国

 中国はもともと多民族国家であった。民族の抗争の歴史の中で,孫文は多民族と広大な国土を国としてまとめる思想として「三民主義」(民族・民生・民権の尊重)で,中国をまともな国にしようとして動き出したが,毛沢東の共産主義勢力が中国を拉致してしまった。毛沢東の中国は,共産主義の基本であるグローバル化を推し進めてきたが,鄧小平になり,WTOにも加盟して,「改革開放政策」と「韜光養晦」で,外国の技術と資金を呼び込み「世界の工場」を作り,中国経済を急速に発展させた。2010年には日本のGDPを抜き,中国はアメリカに次ぐ世界第二位の経済大国になった。しかし習近平になり「一帯一路」などでグローバル化を更に推し進め,WTOにも違反しながら,アメリカの覇権の座を奪い取ろうと動き出した。これに対しアメリカのトランプは,中国がアメリカなどの技術を強制的に取得して技術力,経済力をつけようとすることに待ったをかけ,貿易戦争を仕掛けている。

 最近中国の賃金も上昇し,安いコストの世界の工場の地位が減退し,工場が中国から外に移りはじめ,経済は衰退してきている。中国はまだ独自では技術力で生産性を上げ,新しい産業,商品の創造ができず,「中所得の罠」から抜けられない。労働者,国民の貧困化は進んでいる。中国の中間層と農民の生活は苦しく,共産党政府への反抗があちこちで起こっている。香港のデモは,「逃亡犯条例改正案」の問題ではなく,本当は中国共産党に向けられたものである。1989年の天安門事件の民主化運動のマグマは燃え続けている。技術の盗用,補助金供与について改めることを習近平は一度はトランプに誓ったが,党の内部の圧力で習近平はそれを撤回してしまった。中国独自ではまだ先端技術の開発は困難ということなのであろう。トランプの中国に対する攻撃はまだ続く。

 しかし中国も借金大国になり,最近の産業経済の不振で,トランプとの交渉にはあまり余裕がなくなってきた。さらに経済が後退にすれば中国の民衆の抵抗が激化することになる。

ロシア

 レーニンの共産主義国家ソビエトはもともとグローバル化で世界に革命を輸出しようとしてきた。ソ連共産主義国家は「生活必需品」の生産の段階では「計画経済」による経済は旨く行き,経済も成長した。1945年ぐらいまではソ連は資本主義国よりも経済は成長していた。しかし人間の趣向,好み,宗教を纏った「便益品」時代になると,計画経済ではその商品の生産消費はコントロールできず,無駄も多くなり経済的に衰退してきた。そしてアメリカとの軍拡競争でソ連は疲弊してし,ついに1989年のベルリンの壁の崩壊に続き,1991年ソビエトは崩壊した。プーチンが大統領になりロシア国家を立て直した。それまで宗教を禁止していたが,正式にロシア正教を国として認めた。ロシアはグローバル化ではなく,主権国民国家になるようにプーチンは国を変えつつある。大阪G20でプーチンは「自由主義は時代遅れになった」と言ったが,これはグローバル化が適切ではないと言っているのだ。プーチンは,ドイツのメルケル首相が移民を積極的に入れたことに対しても「それは基本的な過ちだ」と非難した。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1428.html)

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