世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1380

経済コストと環境問題の狭間で揺れる自動車交通の将来:ジレ・ジョーヌ運動の投げかけた波紋

瀬藤澄彦

(パリクラブ日仏経済フォーラム 議長)

2019.06.10

自動車燃料税に代わる自動車シェアリング輸送など急浮上

 2019年1月に始まった国民討論会における参加者からの質問事項は3月18日に締め切られたが,フランス政府が予想していた約2倍の1万3000の公聴会と1万7000にも上る質問事項が寄せられた。政府与党はこの国民的ヒアリングの後に国民が失望を結局は抱くのではないかと不安を隠せない。エドアール・フィリップ首相は経済社会環境会議(CESE)で「真実を開示しようとする国民的な議論だけで問題の処理は終わらず解決には結びつかない」と述べている。ジレ・ジョーヌ運動において浮かび上がってきた最大のテーマは,自動車交通の国民に与える購買力への影響と,それが環境に与える外部不経済であった。折しもポーランドでは2018年12月に国際連合気候変動枠組条約締結国会議(COP)第24回総会が開催され,パリ協定の一層の遵守に向けてこの自動車と環境の問題に関心が高まった。

 マクロン大統領の政権発足以来,フィリップ首相率いる政府は大型インフラ部門よりも日常の交通輸送問題に焦点を当ててきた。既存の道路の保守,鉄道ターミナルの混雑解消,田園農村部の飛び地化現象緩和対策,移動交通手段の確保と充実,物流のモ-ダル化推進など,5つの重点施策を掲げてきた。15の具体的対策の内,ジレ・ジョーヌ運動の問題の発火点となった燃料税に対するひとつの対策として次のものがある。政府は自動車利用の分かち合いシェアリング,いわゆるコ・ブワチュラージュ(Covoiturage)や,影響を直接被ると考えられる絞ったターゲットの人々に資金援助するために地方自治体予算を活用することを思慮している。例えば身障者には特別交通料金を適用する。それらを具体化に向け急ぐように指示した。逆に10万人以上の都市に設ける予定だった高速道路等の都市料金所設置はもう優先順位にない。政府は,今は新たな通行料金を課税するときではないとしている。かつて2013年にブルターニュ地方でボネ・ルージュ・デモ運動に繋がった環境重量税の実施を延期したのもオランド大統領政権時のセゴレル・ロワイヤル環境大臣の官房長で現在のE.ボルヌ輸送大臣であった。

自動車を排除できるか・気候変動に対応した交通はなにか

 多くのフランス人にとってここ40年間に職場と自宅の距離は恐ろしく遠くなってしまった。輸送問題は複雑かつ複合的である。4000世帯のアンケート調査(Obsoco Chronos)によると毎日,車を使う世帯は2016年の59%から2019年には50%に下がっている。現行の市民の交通利用モデルが少し変わってきている。しかしまず相当にまだ地域差があり,公共サービスのアクセスの程度にそれは左右されている。環境汚染問題からすると移動手段としては歩行が最も環境に優しいが,移動のすべての必要条件に答えられないところがある。効率性の観点から,移動距離がもう少しあるケースでは電気自転車の利用が注目されている。80%のひとが使っている自動車よりも明らかに環境問題解決の条件に答えるには明らかに公共輸送である。自動車の場合,もし現在の1.1人という乗車率から2倍位になれば公害汚染は低下すると言われる。また電気自動車になればさらに改善が期待される。

 最も環境汚染の少ない移動交通は輸送手段を使わないことである。テレワーク,電子通販,地域内での買い物など,まだ色々な移動をしなくてもすむ方法が存在する。次に公共輸送推進の政策に問題はないのか。2019年予定されている「交通移動法案」は遠隔地や複数の通勤移動手段についての政策的な方針を示している。自転車,自動車シェアリング,などが提起されている。国立環境エネルギー管理機構(ADEME)は自治体や企業を支援するために,自治体と一緒になった「フレンチ・モビリティ」と称する振興策を推進している。ジレ・ジョーヌ危機は単に税制上の問題だけに焦点をあててしまい,環境問題は後始末になるのではとの問題について,68%の人が環境とそのコストを意識して移動手段を変えようしたことがあると答えている。しかし車に代替する輸送移動手段が可能であるとしたのは49%の人に過ぎない。輸送手段は多くなってきたが,その料金体系についてまだ経済外部性の視点も利用者の選択の観点からは十分に調査分析されていない。

 電気自動車についてADEMEではその最適環境条件を検証してきた。電気自動車のライフサイクルを考慮した場合,地球温暖化対策には利点は多いが,廃棄の時点でのリサイクルの問題があることが判明した。自動車の都心部からの排除の措置が取られているが,それはもっぱら大気の汚染に対するものである。また自転車の交通手段としての役割はまだ全体の2.7%で低く,平均が7%の欧州連合ではフランスは25位に甘んじている。循環経済におけるエコシステムの課題はインフラ面でもサービス面でも多く存在する。INSEEの調査によると自転車の潜在的利用の可能性は大変大きく,5㎞以下の職場までの交通手段としては自動車が60%であるのに対して自転車はたった4%に過ぎないのである。

車に代わる交通移動体系,テレワークの推進

 2019年夏までに発表される交通政策に沿って,政府は2024年までに自転車の利用の割合を9%にまで引き上げる自転車促進計画を策定しようとしている。政府は2024年までの5年間に地方自治体に交通政策として5億ユーロ投入することを決定した。フランス人が嫌がる政策(税金,料金所など)などに訴えることになく自動車の利用を控えるように仕向けられるであろうか。個人レベルでは環境や健康の問題についての高い感心がこれまでの交通問題についての考え方を変えている。81%のフランス人が環境問題は差し迫った課題で,交通手段を変えたと証言している。しがって環境問題に将来への道を開く可能性を開くものである。集団的に多くの企業は今後,車に代わる交通移動体系に切り替え,テレワークを推進していくことが求められる。この点で若い時から車に代わる交通の重要性を啓発する学校教育の役割は重要である。そして自治体の役割は全国レベルでこの分野の問題を経済と社会の面でつなげていくような地域政策を検討していくことである。

 5月23〜26日に実施された欧州議会選挙では,予想をかなり上回り欧州各国の環境政党が議席を伸ばした。環境政党はドイツで第2党,フランスで第3党,英国で第4党に躍進した。若い世代を中心に急速に地球環境に危機感が高まり,歴史的にも高い投票率となったことは,今や環境問題がトップ・アジェンダになったと言っても過言でなない。

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