世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1319

一帯一路構想と日本の経験

石川幸一

(亜細亜大学 教授)

2019.03.25

 約半世紀前,ASEANで日本の経済協力は日本企業への利益を優先するひも付き援助と批判された。また,日本のアジアへの投資は,日本から資本財中間財を輸入し,現地の人材を登用せず,斜陽産業を移転し,技術移転を行わないため,受入国に利益をもたらさないと批判された歴史がある(注1)。実際,1973年,74年には,タイとインドネシアで激しい反日運動が起きている。一帯一路構想(BRI)への批判は,こうした半世紀前のアジアでの厳しい日本批判を思い出させる。

 一帯一路構想は,極めて多様なプロジェクトや政策を含んでいるが,中心になっているのはインフラ整備であり工業団地を含む産業の育成支援である。これは,日本がアジアに行ってきた経済協力と同様であり,日本型の経済協力といってよい。

 欧米諸国や国際機関の経済協力が貧困削減や環境などを重視し,中長期的に貧困削減に効果があるインフラ開発や産業育成支援を行ってこなかったことから,一帯一路構想は途上国のニーズに合致し,経済開発に寄与することが多くの途上国から支持され期待されている。

 一方で,一帯一路構想が受け入れ各国で問題や懸念を生み出していることは否定できない事実である。一帯一路構想は,中国と相手国双方に利益があり(ウィンウィン),国際公共財であるとの説明されている。しかし,個別案件をみていくと,マレーシアの東海岸鉄道,ミャンマーのチャオピューSEZのように中国側のメリットが明らかあるいは中国に戦略的な利益があるプロジェクトが多い。

 一帯一路構想のプロジェクトは受入国の経済規模や財政規模からみて極めて大規模なものが多く債務の増加が懸念され,採算性に疑問があり運営維持が困難になる恐れがあるものが少なくない。受注企業が中国企業であり,中国人労働者を大量に派遣するなどひも付き援助への批判や反発はすでに起きている。中国への経済的依存が過度になることへの懸念も政府レベルで論じられ,反中感情の高まりも報告されている。大型プロジェクトへの返済が不可能となった場合,スリランカのハンバントタ港のように使用権を中国企業が獲得する可能性がある。

 一帯一路構想は受け入れ国だけでなく,中国にもリスクが大きい。米国では,一帯一路構想プロジェクトの多くはハイリスク・ローリターンという評価がある(注2)。受け入れ国は正確かつ客観的なFSの実施,融資条件の厳しい交渉,「ひも付き」の廃止と国内企業,資材,労働力などの利用の要求などを行うなどガバナンスを強化するべきである。そのためには,一帯一路構想の代替案となる選択肢の提供が必要であり,日本をはじめとする中国以外の対話国および国際機関の経済協力が重要となる。「自由で開かれたインド太平洋戦略」の枠組みでのインフラ整備支援は戦略的重要性を持つ。

 一帯一路構想は効果もリスクも極めて大きい。問題が生じた場合,中国のみを批判する論調が多いが,受入国の責任も大きいことは見落とすべきではない。一帯一路構想による恩恵を享受しつつ,対中債務国化や過度の中国依存を避け,自国の自律性をいかに維持するのかが一帯一路プロジェクト受け入れ国の課題である。

 日本は,その後,経済協力,企業進出とも技術移転,雇用拡大と人材育成,社会貢献など受入国の経済社会への貢献と共存共栄に官民で地道に努力してきた結果,現在はASEANでは経済発展と現地社会への貢献が高く評価されている。中国の一帯一路構想の進め方は改善の余地が大きいし,日本の経験を学ぶべきであろう。

[注]
  • (1)当時のアジア諸国での日本批判については,鶴見良行編(1974)『アジアからの直言』講談社,を参照。
  • (2)Philipps, Randal (2018), Mercantilism with Chinese Characteristics: Creating Markets and Cultivating Influence, Testimony before the U.S.-China Economic and Security Review Commission

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