世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1182

トランプ大統領の薬物対策演説:共和党が医療保険充実化積極,民主党が地球温暖化阻止消極の政党になる日

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2018.10.15

 ホワイトハウスのホームページによれば,トランプ大統領は9月24日午前,国連総会での演説の前に国連ビル内で開かれた“Global Call to Action on the World Drug Problem”でも演説し,麻薬等の薬物問題に対処するため世界の国々が団結しようと呼びかけたが,その中で自国のオピオイド(鎮痛剤)問題に関しても言及している。

 実はWSJが9月25日に配信した“Cocaine, Meth, Opioids All Fuel Rise in Drug-Overdose Deaths”という記事によれば,米国では合法的に処方された鎮痛剤の過剰摂取で死亡する人が,10万人に対して4人に近く,これは10万人に対して過剰摂取で死亡する人が4.5人のヘロインに次ぐもので,大きな社会問題になっている。そこでトランプ大統領は,CNNが昨年10月26日に配信した“Trump declares opioid epidemic a national public health emergency”という記事によれば,この問題に対して「国家公衆衛生非常事態」を宣言。対策のために多額の予算を付ける方針を表明している。その対策の中には違法鎮痛剤が例によってメキシコ国境を越えて運び込まれているので,それへの対策等が大きく謳われている。

 しかし前述のように多くの死亡者を出している鎮痛剤は合法的に処方されているものが多い。そのためかNews Week日本版が5月12日に配信した“トランプ,薬価引き下げ表明 医薬品業界と外国政府を批判”という記事によれば,「トランプ米大統領は11日,処方箋薬の価格抑制に関する演説を行った。製薬会社,保険会社,薬剤給付管理会社(PBM)が処方箋薬を高価で手の届かないものにしたと非難し,競争強化と価格引き下げに向けた措置を取ると表明した」。

 これは単に薬価を下げるだけではなく,それによって医療保険会社等の利益が減れば,オピオイド等を安易に処方するメリットがなくなり,処方オピオイドを少しでも減らすことも,目的なのではないか。

 但し同記事によれば,高齢者用公的医療保険の処方箋管理会社等への交渉力を強めるというトランプ大統領の提案は「細かなテクニカル上の変化に過ぎず,大きな変化をもたらすような目立った提案に欠ける」という。

 だからなのかWashington Examinerが9月11日に配信した“Trump’s early efforts to trim drug costs face patient backlash”という記事によれば,トランプ政権は8月に,まず安い薬を使って,それで効かなければ高い薬を使うことで薬価を下げる方式を,高齢者用公的医療保険に導入。さらにWSJが9月16日に配信した“Drug Rebates Aren’t ‘Kickbacks’”という記事によれば,製薬会社から薬剤給付管理会社への払い戻しを禁止することで,やはり薬価引下げと,安易な処方の抑制を狙っている。

 しかしThe Hillが8月10日に配信した“Fearing ‘blue wave,’ drug, insurance companies build single-payer defense”という記事によれば,既存の医療保険会社や大手製薬会社が作った団体が,今までの医療保険システムを守り充実させるための団体を作り,そのような主張をしている民主党議員の応援のため,多額の予算を使っている。但し,これは共和党対策であると同時に,公的医療保険制度を高齢者のためだけではなく全ての世代に普及させようとするサンダースのような民主党極左への反対の意味もある。それが実現したら,既存の医療保険会社等の利益が減る。

 だがサンダースは“彼らの活動も自分の主張する政策の実現を妨げないだろう”と楽観的だという。穿った見方をすれば,サンダースらの政策が実現しそうになれば,その中で少しでもメリットを取れるように,前記のような団体が,自分達に献金するようになることを期待しているのかもしれない。

 何れにしても今まで米国では医療保険業界や製薬業界は民主党の重要な資金源だった。彼らからの莫大な献金がなければ,あのヒラリーやオバマのような偽善者が,あれほど医療保険制度充実に熱心になる筈がない。サンダースも含めて民主党の有力政治家は,製薬業界や医療保険会社等からの献金目当てに,多くの罪なき人々をオピオイド等で廃人化させたりする悪魔的な人々である。そのような人々と協力を模索するような日本の政治家を絶対に信用してはいけない。

 ところで今年の中間選挙で民主党の絶対的地盤ニュージャージー州から上院議員選挙に出ている共和党の候補は,実は大手製薬会社の社長である。相手の民主党現職が汚職事件に巻き込まれていて勝つ可能性がある。

 今まで述べてきたことは全て,民主党の資金源の一角を崩す共和党の作戦なのかもしれない。

 その共和党の資金源は石油業界である。そのため共和党は地球温暖化阻止の政策に消極的なのである。日本では余り知られていないが,その影響で米国では,保守派の方が原発反対で民主党の方が原発賛成なのである。原発が増えれば火力発電所を減らせる。石油業界の資金を減らして共和党への献金を減らすことが出来る。民主党が地球温暖化阻止政策に積極的なのは,いま共和党政権が薬価を下げようとしていることと同じなのである。

 ところがThe Hillが9月10日に配信した“Koch network launches super PAC ahead of midterm elections”という記事によれば,共和党最大のスポンサーであるコック石油財閥は,グローバルなビジネスに批判的なトランプ政権への対抗のため,今年の中間選挙では,4億ドルもの献金の少なからぬ部分を,民主党の候補のために使う可能性が高い。

 今まで述べてきたことからすると「共和党が医療保険充実化積極,民主党が地球温暖化阻止消極の政党になる日」が,いずれ来るのかも知れない。それに日本の産業界も備えておいた方が良いだろう。

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