世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1174
世界経済評論IMPACT No.1174

トランプ大統領国連演説の意義:対イラン戦争は,起きるか?

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2018.10.08

 トランプ大統領は9月24日,国連総会で演説した。米国でも日本でも,彼が会場から笑い者にされたような報道が,主流メディアでは多い。だが演説の中身の重要性を理解するべきなのではないだろうか?

 それに関してはヘリテージ財団が9月25日に配信した“7 Top Takeaways From Trump’s UN Speech for Friends and Foes Alike”が,最も良くまとまっていると思うので,同報告とネットで読める演説全文を参考に以下に解説して見よう。

  • 1.米国経済は好調であり,株式市場は史上最高,失業保険受給申請は50年来最低—特にマイノリティの失業率は過去最低で,400万以上の新しい雇用(50万の製造仕事を含む)が増えた。そして国家安全保障も望ましい方向に向かっている。
  • 2.例えば北朝鮮との非核化交渉も進み北朝鮮はミサイルや核の実験を停止している。それは自分の掛けた圧力の影響もあった。
  • 3.同じように圧力をかけてベネズエラも民主化したいので特に南米諸国に協力を求める。同国の社会主義は石油輸出国である同国経済を破滅させ,200万人もの難民を流出させている。
  • 4.だが米国はnew global compact on migrationには入らない。移民,難民問題は危険薬物の問題とも関係して非常に悪影響が大きく,アメリカは自らの主権を守る為にも単独で対処する〈この危険薬物の問題は非常に重要であり稿を改めて詳述する〉。
  •  同様に米国は主権を守るため全てのグローバリズム思想を拒絶し,国際刑事裁判所には今後も関わらず,また国連が効率的な組織に改革されるまでPKO分担金は25%以上は払わない。国連人権理事会も諸改革が行われるまで戻らない。NATOにもコスト分担を求める。
  • 5.同様に中国が世界貿易機関に加わったあと,米国は300万の製造業と,およそ4分の1の鉄鋼業の雇用と60,000の工場を失い,累積貿易赤字は13億ドル,知的財産権も無視されている。そこで自分は中国製品に総額2500億ドルの関税を掛ける対抗措置を取った。
  • 6.OPECが石油の値段を吊り上げていること,ロシアの石油に一部の欧州諸国が過度に依存していることは望ましくなく,アメリカは今後シェール石油の輸出で対抗して行く。
  • 7.イランはオバマ政権時の核合意成立後に40%も軍事費を増やしており,テロの支援やミサイル開発等も止めていない。そこで自分は核合意から離脱しイランへの制裁も再開した。世界各国が同調してくれることを望む。

 特に最後のイラン問題は重要である。BBCが9月26日に配信した“Trump seeks UN backing for Iran nuclear sanctions”という記事を見ても,トランプ氏は同日,国連安保理の議長として同会議でも同様の発言を行っており,この問題に対する同氏の意欲の大きさを理解することが出来る。

 米国の対イラン制裁は,11月4日(中間選挙投票日の前々日)には,イランとの石油取引に関係する米国内外の金融機関を含む,全ての民間企業にも適用される。つまりイランとの石油取引は非常に難しくなるのだが,イラン核合意を今でも守っている英仏独中露5カ国は,新しい決済のシステムを設立することで,米国の制裁があってもイランとの石油取引を継続する方向で考えている。

 それはロイターが8月27日に配信した“Iran president asks Europe for guarantees on banking channels and oil sales”という記事によれば,これら諸国に対しイランのロウハニ大統領も同様の働き掛けが行われている。だが同記事によればイラン革命防衛隊の高官が,米国の制裁に対抗するため,ホルムズ海峡封鎖を示唆するような発言も行っている。

 同じロイターが8月31日に配信した“Iran moves missiles to Iraq in warning to enemies”によれば,イランはイラク国内の親イラン派に,弾道ミサイルの供与も行っている。

 そして同じロイターが9月24日に配信した“Mattis dismisses Iran’s revenge threat as tensions climb after attack”という記事によれば,9月22日に起こったイラン国内の軍事パレードが何者かに襲撃され25人の死者が出た問題に関し,やはり同国革命防衛隊高官は,アメリカないしイスラエルによるものとして,報復を示唆している。例によって穏健派のマティス国防長官は「馬鹿げたこと」の一言で片付けようとしているが,FOXが9月26日に配信した“John Bolton warns Iran ‘there will be hell to pay’ if aggression continues:‘We will come after you’”という記事によれば,強硬派のボルトンNSC担当大統領補佐官は「そのような挑発等をイランが続けるなら『地獄行き』になるぞ!」―と発言している。

 そしてNational Interestが9月24日に配信した“Iranian Regime Change Advocates Are Licking Their Chops”という記事によれば,ジュリアーニ法律顧問が「ボルトンや自分のいる今のトランプ政権の最終的目的は,イランの『体制変更』である」と明言している。

 にも関わらずNBCが10月1日に配信した“Iran Revolutionary Guard launches missiles into Syria over parade attack”という記事によれば,イランは「米国に死を!」のスローガンと共に東部シリアに弾道ミサイルを発射した。

 やはりイランと米国ないし同盟国(サウジ,イスラエル等)との戦争は避けられず,早ければ中間選挙直前にも起こるのではないか? それは時期や規模等によっては,今は資源輸出国家である米国,ロシアそしてサウジやイラン自身にとっても,国際的な石油価格の上昇で利益を得られる。もちろんトランプ政権は,中間選挙での劣勢を挽回できる。そのような“グレート・ゲーム”が始まろうとしているのかも知れない。石油輸入国日本としては,そのような事態への準備を,怠ってはならないだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1174.html)

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