世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1172

多様性時代の現場作りを考える

岸本寿生

(富山大学経済学部 教授)

2018.10.08

 2018年度版ものづくり白書では,主要課題の一つとして「深刻化する人手不足のなかで現場力維持・強化,デジタル人材等育成確保の必要性」が指摘されている。現場力の維持・強化に対して,デジタル化(IT化やAIの導入など)により対応しようとするものである。しかし,ものづくりの現場は必ずしも若手やIT人材が容易に獲得できるわけでもなく,AIを導入する資金的余裕がない企業の方が普通であろう。

 現在,国内外の多くの製造現場において製造要員の高齢化が進んでいて,かついろいろな国からの労働者を採用している場合が多い。また,海外に製造拠点を移転した場合も,進出当初は賃金の安いローカルの労働者が潤沢であったが,進出国が経済成長するにしたがって,現場労働者の確保が難しくなり,同時に賃金も予想外に高くなっている。そのため,近隣諸国の低賃金の労働者を採用し,一部の海外の製造拠点では,様々な国の労働者を雇うようになってきている。他方,日本人派遣者は,コストの面から削減を計画するものの,まだまだ日本人社員の役割は大きく,削減もままならない。さらに,ローカル企業にM&Aをした場合など,現場の生産水準を上げるための問題が山積している。今日の製造現場には,年齢,国籍,宗教など多様な人材がおり,これまでにないマネジメント・センスが求められている。いくつかの事例から,多様性時代の現場作りを考えて見たい。

 日本国内の製造現場では,シニア(年配)人材が増加しているケースが多い。大企業であれば,これまではある程度の年齢になると製造現場・ラインから間接部門への異動などを行っていた。しかし今や,シニア層の製造要員の人数が急速に増えており,間接部門では吸収できなくなり,また若手を大幅に増やすこともままならなくなっている。なおかつ,合理化のための自動化が急速に進むなかで,熟練のノウハウを伝承するためにもシニアが必要である。そのためには,年齢によるハンデを感じさせない現場作りが重要である。シニアがハンデを感じるのは,視力,力作業,作業姿勢などと言われる。まずは,比較的ハンデを感じさせない作業工程を探し出し,シニアを配置することである。そのほか,シニアをアシストする工夫をすることが求められる。具体的な例としては,作業床に照明の反射を利用できるペイントをして手元を明るくする。工具や電動器具などにバランサー等をつけて保持作業を軽減させる。また,屈み姿勢に補助椅子を設置することなどである。これからは,シニア目線にたった作業環境のカイゼン活動を行うことが大切である。そのことは同時に,シニアに限らず作業効率を向上させることになる。

 次に,海外の製造現場を見ると,台湾,タイ,マレーシア等の工場では,現地の人材だけではもはや賄いきれなくなっている。ある工場では5カ国以上の人材が生産現場に投入されている。その場合,進出国のワーカーが他国からのワーカーを指導することが多いが,他国のワーカーを見下したり,特定の民族や宗教の人を差別したりすることがしばしば起こる。また,他国の人同士の諍いも多いという。このように,ワーカーの多様化はとかく軋轢を生じやすい。その様な場合,日本人派遣社員の公平性や中立性を活かして,現場のモラル作りに一役買うことが多いという。日本人派遣社員の新たな役割である。

 最後に,途上国向け製品を製造するために新規投資でなく既存の同業企業に過半数の出資をした合弁会社を訪問した。既に完成品を製造していたので一定水準の現場であると予想していたが,本国工場とは雲泥の差であった。まず始めに5S活動などに取り組むところであるが,2S(整理,整頓)活動でも困難が多いとのことであった。日本のシステムの導入には根気が求められる。

 以前,中国のプラスチックの射出成形工場を訪問した際,「技術者として,日系現地企業は若手社員を派遣し,中国のローカル企業はシニアの日本人を雇用している。シニアの日本人は,自分の若い頃の職場のようでやりがいがあると言う。ここでの技術競争は,日本人による世代間競争である」と聞いたことを思い出した。日系企業は,現場作りの経験値の高いシニア人材の活躍する場を見つけ出すことも肝要である。

 製造現場は急速に多様化している。とかく製造現場は保守的になりがちであるが,戦略的に捉えることが求められている。

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