世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1157
世界経済評論IMPACT No.1157

巨大な都市圏が地球規模で連続して繋がっていく

瀬藤澄彦

(パリクラブ日仏経済フォーラム 議長)

2018.09.17

従属からの独立・自立・連携を目指す都市の動き

 農産物の自給に関連して最近,注目を集めているのは「自給する都市」という考え方である。ローカルな,すなわち,地元の流通生産ネットワークを優先して,ロジスティックな距離を短縮しながら農産物を調達していこうという運動である。ここから自給自足する都市を実現していこうというユートピア的な発想が出てきた。この発祥の地は英国のヨークシャイヤー州のトドモーデン市である。ここでは40種類の野菜果物を市内の公共空間で栽培する“incredible Edible Todmorden”プロジェクトが2008年に始まり2018年に自給自足する目標を掲げている。

 ここでは食物だけではばく,グローバル化反対の地政学的戦略の概念の一部にもなっている。個人や地方自治体の戦略的な資源を都市の従属と独立の観点から見直そうというものである。従って,エネルギー,食料,金融,医療,治安,持続性のある経済成長などの次元で都市として自活していくことを意味している。フランスでは2050年までに人口が最低約1000万人増大すると予測されているが,レンヌ市,パリ首都圏,ナント市,などの都市でこのような自給都市への試みがすでに始まっている。多くの都市が事例を競う合うように今やこの運動が拡がり始めている。欧州では今後2030年に向けて人口の80%が都市に居住すると国連は予測する。都市における食料とエネルギーは幾何級数的に増大する。このような傾向に拍車をかけるのは経済社会のデジタル革命と交通革命である。食料のみならず遠隔地からの送電では間に合わず建造物にスマート都市としての発電機能を備え付けるようにする動きである。自動車の自動運転時代がさらに電力需要を急上昇させる。大都市は持続可能なハイブリッドな経済社会構造を自ら構築することを余儀なくされるのである。都市はこのように都市圏以外の食料やエネルギーに従属することを軽減して自給自立することを目指しながらも,拡大膨張密集する巨大都市空間は必然的に広域行政体の形成が広がりを見せる。巨大都市は「スーパー・シティ」として隣接国の都市空間との間に空間集積の分業や序列化を伴いながら都市のネットワーク化が発展していく。米国ではアトランタを基点にした南東部メガロポリス,欧州ではバナナ・ブルー圏内での例えばルクセンブルグ市とベルギー,ドイツ,フランス3国の近接都市との地域経済圏協力,ジュネーブとフランスのアンヌシ,バーゼルと近隣独仏の都市との協力などは国境を越えた動きが具体化している。それ以外の地域でもバルセロナ,モンペリエ,ツールーズ,マルセーユ,カンヌ,ニースの西地中海沿岸一帯は別名,「バナナ・オレンジ」と表現されるように欧州版カリフォルニアのニュー・ハイテク構想が動いている。このほかリヨンを中核にグルノーブルとサンテチエンヌの3都市が合同してグローバル中核都市を目指そうとしている。

単一市場は中央と周辺の都市不均衡格差を拡大

 地域間不均衡はいわゆる釣鐘型モデルと言われてきたように産業革命後,20世紀を通じて拡大していたが,「5000ドルの法則」となずけられたように(Catin Christophe),一人当たり所得水準がこのレベルに達した1990年代以降,地域不均衡は一旦縮小傾向にあったが,ユーロ危機以降,急速に拡大が目立つようになってきた。1991年のクルーグマン・モデルでも検証された通り,良質な労働力人口の移動は国内の地域間では自由に行われても国境を越えることは現在の統合欧州では極めて少ない。グローバル企業は世界的マーケティングを遂行するうえでは内需よりも外需を重視する。国内の産業集積地となる中央部は労働力など生産要素を吸収するが,その反面,企業は国内の周辺地域には立地を控えるようになる。これは求心力と遠心力がそれぞれ作用するとする新地理経済学の論理でもある。富裕地域はかつて貧困地域を必要としたが,今や「足手まとい」になり国内の周辺地域から解放されたいと志向するようになった。新地理経済学では多国籍企業の立地を決定する3大因子は市場アクセス,技術的外部経済性,生産コストであるとされる。これは新古典派の生産関数などで中心概念となる労働力,資本,技術進歩などと大きく異なる。しかし生産要素の移動は新古典派が考えたようにはEU内では所得水準の収斂には向かわず,逆に地域的な競争優位が形成され,さらにそれが集積力に変貌する状況が生み出されたのである。EUは単一市場の結成によってヒト・モノ・サービス・情報の自由移動や非関税障壁の除去,規制緩和を優先的な目標としてきた。巨大な統合空間は成長と福祉を促進し,貿易面でも参加国に利益をもたらすものと期待されていた。

 単一市場が域内に不均衡を拡大させ,EUの周辺国・地域に代わって中央の国・地域に益々利益をもたらすだけではないかと懸念され始めたのである。地理的な空間の不均衡は欧州の政治的な安定を損なうリスクも心配される。周辺国がこの欧州統合に参画する意味そのものが問われかねない。ユーロ経済圏においてはとくに最適通貨圏論は十分に機能していかないのではないかという疑念が浮上してきたのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1157.html)

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