世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1142

基礎技術開発に政府の主導性を

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役社長)

2018.09.03

イノベーティブな基礎技術の開発は民間企業では困難

 既存技術・商品の改良,コストダウンではなく,世界を変えるような新しい技術が求められているのである。この問題に対して本当にソリューションがあり得るのか分からないものにチャンレンジすることは普通の民間企業にはできない。これからの社会を変えるためのソリューションは皆このようなものとなる。しかし民間企業ではこれまでにない新しい商品に繋がる技術を開発することは大変難しい。全く新しいコンセプトであるものを極める科学的なアプローチである。これには膨大な投資が必要で,リスクが高い。またそうした全く新しい商品の発想も民間企業では困難である。これは国家が戦略をもって取り組まなければならないものである。

 日本は特に明治からの近代化のなかでは西洋に追いつくことを主眼にして西洋の技術・商品を模倣して経済を拡大してきた。民間企業は確実に可能なものであると言う目途がつかないものには投資できない。しかし,民間企業もイノベーションの高いマインドが無ければ,“容易に収穫できる果実”があっても,猫に小判になる。しかし現在の日本にとっては,国家による基礎技術・応用技術という「収穫できる果実」の開発は極めて重要である。

 これまで“容易に収穫できる果実”は主としてアメリカがそれを開発してきた。世界的な経済の衰退を食い止め,経済社会の更なる発展をするには更に多くの“利用できる果実”を開発して,用意する必要がる。これをアメリカ一国に頼ることはできず,世界の国それぞれがそれを用意しなければならない。そして国民のために多くの職場を創造し,提供なければならない。もう一度「月に人間を送る」というような宣言をして,イノベーションの新しい波を起こす必要がある。国家のリーダ-とイノベーティブなアントレプレナーがこれを担うことになる。

 こういう意味では中国の最近の動きは注目すべきものがある。鄧小平時代から中国は「サイエンスの重要性」を十分理解しており,国家で科学開発活動を戦略的に推進している。「中国製造2025」としているが,単なる製造技術ではなく,先端科学・技術による基礎技術,国防に関わる先端技術を開発しようとしている。そして,半導体産業,EVでの自動車産業の拡大,先端通信技術など明確な「国家戦略」を立てて世界のリーダーを目指して中国の産業拡大の活動を進めている。トランプが中国に対して関税による貿易戦争を仕掛けているのは,貿易赤字の削減ではなく,実は「デジタル帝国」を築こうとしている中国に対する覇権戦争である。つまりこれから「大型イノベーション」,「ディスラプティブ・イノベーション」の競争時代になる。その中にあって日本の科学力に対する考えと行動は,アメリカ,中国とは埒外にあるようだ。日本として,これに伍し,日本の世界における重要な役割を確立するための国家戦略を創らなければならない。

日本の取るべき道

 それでは具体的には国家がどのようにしてこれからの新しい社会,新しい世界を創るうえで国家,公的セクターがどのように“容易に収穫できる果実”を開発し用意するかである。重要なことは社会,市場の現実と大きな課題をどう解決すべきかの「政策立案者」を育て,起用することである。これには「常識外れ」のマインドで,リスクの高い新しいものを創造するというエネルギーが必須になる。そして,これには日本人も,困難なタスクを「神と一緒に考え,挑戦する」という気持ちにならなければできないのかもしれない。全く新しい,先の見通しもない商品を創造するために,こうした人材と組織を日本でどう創るかである。族議員や官邸への忖度が入る余地のない高度な「国家シンクタンク組織」である。アメリカのDARPAのような研究機関組織を考えるべきであろう。

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