世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1134
世界経済評論IMPACT No.1134

トランプ大統領の反Politically Correct考:トランプ流策弄スライドショウを読み解く

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2018.08.20

 トランプ流の,極めて強引な,政治常識から外れていると見える行動は,何も対外関係面での事例だけには限られない。国内政策の面でも,同じような案件は多発している。

 本年に入ってからの問題だけでも紙幅に余る位だ。

 トランプ大統領のやり方は,俗に言われるPolitically Correctの考え方からは程遠い。

 たとえば,不法移民への対処の問題。

 「不法に入国して来た者は国外に撤去させる」のが原則。

 ただ,トランプの前任オバマ大統領は,子連れの不法移民に,その強制退去規則を適応しない,つまり,ある種,例外扱いとして,彼ら親子の国内滞在を許す大統領令(Deferred Action for Childhood Arrivals; DACA)を発出していた。

 トランプ大統領は,このDACAを昨年廃止,もっと抜本的な移民法見直し立法を議会が採択するように働きかけていた。ところが,議会が思うように動かない。

 「だとしたら…既存の,不法移民は追放するとのルールを適用するのみ…」。

 かくして,トランプ政権は,Politically Correct思考など無縁の如く,「正そうと思っても議会が賛同しない」のだから,それなら既存ルールを逆に活用して,徹底して実行に移す方途に出た。新たな不法移民の到着という事態に,あらゆる手段を講じてこそ,行政の義務が果たせるのだから…。

 具体的には,今春,セッション司法長官が,トランプ大統領の意向を受け,「これ以上,米国に不法移民が入ってくることには耐えられない:Zero Tolerance Policy」との姿勢を打ち出す。そうした路線に従って,同長官は「不法入国は犯罪だ」,「例外なく罪に問う」との基本姿勢で,積極的な検挙に乗り出す。

 問題は,そうした不法入国者夫婦にも,子供が居ることだった。

 結果,不法入国者と認定された者は拘束され,子供たちは,否応なく,一時的にせよ親元から引き離され,連邦政府の保護下に置かれることになる。親から切り離された幼い子供たちは泣き叫ぶ。そのニュースをテレビが全米の御茶の間に放映する。

 選挙の年,このトランプ大統領の姿勢は,Family Valueを強調する米国議会保守派の反感を買い,人権を重視する民主党リベラル派も当然に強く反発する。そうなると,お定まりの,移民法改正への議会の抵抗も一層強くなり,結果,トランプ政権の不法移民への強硬姿勢も,今のところ,若干は緩んでいる模様(議会の立法作業が,上記理由や中間選挙前というタイミングなどの理由で,遅々として進まないため)。

 同じ類の,Politically Correctを無視する,トランプ流行動の最近の例としては,暫定予算問題への大統領の姿勢も挙げられる。

 周知のように,米国の財政年度は10月から翌年の9月まで。

 本年度の場合,9月30日までの行政予算が不足し始め,取り敢えずは,今後は暫定予算で凌ぐことになる。それが通例のやり方で,そうした応急の予算措置を講じておいて,それとは別途,議会選挙の年故,議会が忠実に仕事をしていることを有権者に示すためにも,10月から始まる新年度予算の審議を進め,可能なことなら新年度が始まる迄に,新年度予算を制定しておきたい。そのためには,特に選挙を前にしたこの時期,予算審議で,ごたごたしたくない。これが議会共和党指導部の考え方だった。

 ところが,こうした思惑を十分に知りながら,トランプ大統領は議会共和党指導部にとってはとんでもないことを言い出す。

 不法移民の流入を防ぐためのメキシコ国境沿いの壁建設経費を,本年度9月末迄の暫定予算に盛り込まなければ,議会の超党派が成立を目指す暫定予算案を拒否する,というのだ。議会共和党の説得に対し,トランプ大統領は「結果として,連邦政府の一部機能が予算不足で閉鎖されても構わない」,と言い張っていると伝えられる。

 「選挙の年に,敢えて有権者の反発を買う措置を取ることはないだろう」

 共和党の議会指導者たちは,その様に考える。しかし,トランプ大統領は,議会与党指導者たちが,その様に考えていることすら,自分の選挙公約であるメキシコ国境での壁建設を実現させるための,対議会交渉材料にしようとしているわけだ。“暴れる君”的なトランプ大統領の行動に手を焼いているのは,海外諸国ばかりではない。米国議会の,与党共和党ですら,同じ様に,トランプの交渉対象にされているのだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1134.html)

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