世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1113

喫緊の課題となる中国のサービス輸出拡大

真家陽一

(名古屋外国語大学外国語学部中国語学科 教授)

2018.07.16

 中国がサービス輸出の拡大に乗り出した。中国政府は北京など17地区をサービス貿易の革新的発展のモデル地区に選定し,7月1日から2020年6月30日までの2年間に,通信,観光,土木コンサルティング,金融,法務などの分野で重点的に開放措置を打ち出すことを表明した。

 同時に,サービス貿易参入制度の整備を模索し,徐々に規制を緩和・撤廃しつつ,関連する貨物貿易や人の移動などのために通関やビザの利便性を高める方針だ。また,研究開発・設計,検査測定,国際決済,展示などのサービス貿易を発展させることで,開放・発展の新たな目玉をつくる意向も示した。

 この措置は,5月23日に李克強首相が招集した国務院常務会議で決定した。会議では,サービス貿易の革新的発展を図る試行を深化させ,開放によって経済構造の最適化・高度化を推進する方針が打ち出された。同会議では「サービス貿易を優先的に発展させることは経済の高度化と質の高い発展を推進する重要な措置である」と指摘された。

 「世界に向けて『中国サービス』という国家ブランドを築き,開放型経済競争における新たな優位性を高める」。試行の開始に先立って6月19日に記者会見を行った商務省の冼国義・サービス貿易局長はこう強調し,モデル地区においてサービス輸出の拡大に注力する考えを示した。脆弱分野の補強に焦点をあて,サービス貿易の新業態・新モデルを構築し,デジタル技術が支える新興サービス貿易を広く開拓するとしている。

 中国がサービス輸出の拡大を推進する背景には,サービス貿易が大幅な赤字になっていることが挙げられる。世界貿易機関(WTO)によれば,2017年の中国のサービス貿易は6,900億ドルとなり,4年連続で世界第2位となった。しかし,輸出2,260億ドルに対し,輸入は4,640億ドルで,サービス収支は2,380億ドルの赤字となっており,圧倒的な輸入超過となっている。

 米国との貿易摩擦問題を背景に,巨額の貿易黒字ばかりがクローズアップされる中国だが,モノの貿易は黒字でも,サービス貿易は赤字であり,経常収支の黒字を維持するにはモノの貿易黒字で穴埋めせざるを得ないのが現状だ。国家外貨管理局によれば,2018年第1四半期は,貿易黒字が前年同期比35.1%減の534億ドルと大幅に減少する一方,サービス収支の赤字が20.2%増762億ドルに急増した結果,経常収支は282億ドルの赤字に転じた。米国との通商交渉次第では,貿易黒字のさらなる縮小を余儀なくされることも予想されるだけに,中国にとってサービス輸出の拡大は,経常収支の黒字を維持するためにも,喫緊の課題となっている。

 サービス収支が赤字なのは,旅行支払の拡大によるところも大きい。中国観光研究院によれば,2017年の中国の海外旅行者数は1億3,051万人に達して世界トップ,海外での消費総額は1,153億ドルに達したという。これは見方を変えれば,国内の消費需要が海外に流出したと見ることもできる。

 赤字の主因となっている旅行について,中国はインバウンド大国を目指すべく,さまざまな措置を打ち出している。例えば,2017年9月,世界自然遺産・ジャイアントパンダ保護区があることでも知られる四川省成都市で開催された国連世界観光機関(UNWTO)の第22回総会では,中国が主導するグローバル国際観光組織とされる「世界観光連盟」の発足式が行われた。本部と事務局は北京に置かれ,中国以外に,日本,米国,フランスなど29カ国・地域から89の団体が創設会員として加盟した。

 中国国家観光局の李金早局長は発足式の席上,連盟設立の背景として「貿易保護主義の台頭に伴う観光産業の持続可能な成長への圧力増大,地政学的衝突やテロリズムが観光の安全に及ぼす脅威といった問題の顕在化」を指摘。その上で「世界の観光業界はグローバルで総合的な非政府・非営利的の国際観光組織の出現を切望していた」と連盟発足の意義を説明した。

 また,李局長は「2016年の世界の国際観光客数は延べ12億人を突破,国際観光収入は1兆2,000億ドルを突破した」と強調。観光産業がグローバルに拡大する中,「中国は連盟発足を契機にグローバルな発言権と影響力を向上させ,自国の観光産業をさらに振興させたい」との意向を示した。

 他方,中国がサービス輸出の拡大を図る上では問題点も少なくない。商務省の冼局長は前述の記者会見において,「中国のサービス貿易はスタートが遅く,基礎が弱く,経験も少なく,質,構造,効率の一層の改善が必要」と率直に表明した。加えて長期的な問題として管理体制を指摘。「政策体系が整備されておらず,統計の基礎も強化が待たれることがサービス貿易の発展を制約している」と強調した。

 経常収支は対外純所得に相当し,いわば海外からの「稼ぐ力」,経済の「国際競争力」を示すものだ。モデル地区設置による2年間のサービス輸出拡大策により,中国はサービス貿易収支を改善し,経常収支の黒字を維持できるのか。今後の政策動向に注目していきたい。

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