世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「世界新秩序」の形成に備えよ!
(Global Issues Institute(株) 代表取締役CEO)
2018.01.08
「世界新秩序」の形成が始まろうとしているのかもしれない。
昨年11月末の北朝鮮ミサイル実験に関する米国内の反応は,もう北朝鮮が核を持っている前提で和解するしかないという論調が,保守系メディアでも有力である。それを阻止するには,中国に北朝鮮を占領させるくらいしかない。しかし,そのために必要な中国への金融制裁等の圧力には,クシュナー上級顧問のような,中国との経済・金融的取引で潤っているウオール街や産業界の代表者的な人物の影響力が,低下しなければ難しい。
だが,それを実現できそうな状況が,12月初旬に起こった。ロシア疑惑に関係して,クシュナー氏がロシアとの共謀容疑で起訴される可能性が,フリン元NSC担当大統領補佐官の証言から,出て来た。それ以来クシュナー顧問の影響力は,低下し続けいるようだ。
その表れが12月18日発表のトランプ政権新外交政策だろう。その中では,中国に対する厳しい対応を謳い上げている。
それ以前にトランプ政権は,エルサレムをイスラエルの首都と認める宣言を行っている。これはクシュナーの力が落ちても,イスラエルを通じてロシアとの協調を行い易くするためではないか? 冷戦終結後にイスラエルは,ロシア系ユダヤ人の移民の増加で,パレスティナ独立を認められる状況にはない。その結果として今のイスラエルは,米国とロシアの鼎のような,とても特殊な立場にある。
エルサレムを首都として認めることで,イスラエルを完全な味方に付け,ロシアとのパイプを(クシュナーが失脚しても)太くすることが,トランプ政権の目的ではないか?
そうすることで北朝鮮情勢も解決し易くなるのではないかという考えもあるかも知れない。
例えばティラーソン国務長官の辞任は時間の問題であり,タカ派のポンペオCIA長官の昇格が予想される。もしも北朝鮮が米国ないし同盟国の領海近くでミサイルや核の実験を行えば,ポンペオ氏は米国への攻撃と同等に見なし北への攻撃に積極的とも言われている。
既に北朝鮮の核やミサイル製造工場を制圧できる米国の特殊部隊もスタンバイ状態になっているという情報もある。横須賀で“修理中”のものを含めれば,アメリカ海軍の空母は,3隻が北朝鮮の近くにある。そして日本の大手船舶会社の船舶が3隻,釜山で待機中である。理由は不明だが日本政府の要請で待機していることは確からしい。その中の一隻のタンカーの油槽内部は,綺麗に磨かれているという。
どうやら北朝鮮との戦争は,不可避な情勢になっている。北朝鮮の金正恩政権は中国を信用せず,親中派の幹部を粛清した。その金正恩を中国も信用していない。そのため実は中国の北朝鮮への影響力は限定的なのが実情だ。
そこで今ではロシアの方が北朝鮮への影響力があるのではないか? 現在の北朝鮮のミサイルや核等の技術は,ロシアから移転されたものと考えるのが,前述した中朝関係の実態からすると自然である。ロシアの協力が得られれば北朝鮮危機を乗り切れるかも知れない。
だがトランプ政権は,ロシア疑惑の関係で,ロシアとの協力を表立って出来ない状況にある。そのためかクシュナーとライバル関係といわれ,ホワイトハウスを出た後も,トランプ大統領に大きな影響を持つと言われるバノン元戦略顧問は,2017年12月17日の産経新聞のインタビューで,北朝鮮問題は中国の出方に掛かっていると述べている。バノンの宗教保守派的思想はピューリタン的信仰とユダヤ教が中心のものと言われている。その発想からすると,輸出等の利益や石油利権の問題はあっても中国やイスラムとの協調は難しく,逆に同じキリスト教国ロシアとの協力は望ましいのかもしれない。
そのような宗教的な理由から,キリスト教保守派のバノンとユダヤ系のクシュナーの関係は,言われているほど悪くないかもしれない。この二人は,トランプのエルサレム首都認定宣言の前後,頻繁に中東諸国を訪問している。その彼らの訪問に次いでロシアのプーチン大統領が,同じ国を訪問する現象が何度も起こっている。
トランプとプーチン間で,中東等の“線引”を巡り新秩序形成が始まっている可能性がある。それは影響力の低下しつつあるクシュナーに代わり,イスラエルが影で調整役を果たしているのかも知れない。エルサレム首都認定問題でアメリカは,中東諸国を敵に回したように見えるが,それが実相かは分からない。米露協力した新中東秩序が形成されつつある可能性は低くないと思う。その新秩序は中国や北朝鮮と米露との関係にも多大な影響を及ぼす可能性もある。それを北朝鮮のミサイル問題や中国との領土・領海問題を抱える日本に,有利な方向に持って行けるかどうかは,この世界新秩序に対する日本自身の理解と展望それに基づいた戦略と覚悟に掛かっていると言っても過言ではないだろう。
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