世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.891

タカタを買収したのは何者なのか:日本企業が怠ったことの代償

杉田俊明

(甲南大学経営学部 教授)

2017.08.07

 2017年6月,タカタがアメリカのKSSに買収された。KSSのCEOはJason Luo,元々中国生まれ,中国育ちの羅冠宏氏だ。

 ところで,このことは驚きに値しないが,当の業界関係者たちも驚くのはその背後である。

 KSSを1年前に買収したのは中国の均勝グループなので,タカタは実質,中国企業に買収された。意外に思う人が多く,均勝って,だれ? というのがまず疑問となった。ここでようやく,これまで慢心してきた日本の関係者がある事実に気付く。

 歴史は14年ほどしかない均勝だが,創業者の王剣峰氏は実はその前の5年間,タカタと同業の,TRWのある中国現地法人で社長を務めていた人物だ。

 それに,このTRW勤務時の部下で販売担当マネージャーだった者が,いまでも均勝グループの中核で上場企業でもある均勝電子の取締役として王氏の経営を支えている。

 TRW中国首席代表だった者も昨年から均勝電子の社外取締役を務め,上海GM購買調達担当総責任者を務めた者は取締役兼副総裁として,元Bosch中国統括会社勤務者も取締役として加わっている。

 取締役ではないが副総裁として招聘されているのは,元上海Learマネージメント東区総責任者,Lear上海自動車システム管理の社長を歴任した者である。

 多くの人が知っているように,TRWはアメリカに本社がある世界有数の自動車部品関連企業で,最大手の一つであるドイツのZFに買収されてからはZF TRWとして業界最強グループの一つを構成している。

 そして,Boschは本社がドイツ,Learは本社がアメリカで,どちらも世界的な自動車部品関連企業で,GMはアメリカの代表的な自動車企業だということは周知である。

 ドイツのPrehグループの総裁兼CEOを務めるドイツ人も均勝電子の取締役。均勝に2011年に買収されたPrehはいまや均勝の欧州地域本社的な役割を果たす。

 ここでもう一つ,特筆すべきことがある。

 均勝電子目下の経営陣14名はほぼ全員,社会人になってから高等教育の研修を受けてきた者である。うち,エクゼクティブが対象のEMBAが5,MBAが3,計8名も経営学修士または博士号を有し,他に法務と会計の専門職もいる。

 ちなみに,前掲羅氏もKSSでの勤務をこなしながら,アメリカの大学の週末コースでMBAを習得した者である。

 つまり,歴史は浅く,本体の規模も小さいが,均勝の経営陣は世界トップクラスの関連企業で修業してきた者たちで,グローバルビジネスの経験を有する者たちである。

 他方,勘や経験だけに頼ることもなく,彼らは技術面での遅れを経営論理の知見で裏付けられている経営力でカバーし,先端企業の買収を繰り返すことで業界におけるグローバルサプライチェーンの一角を確保しようと試みている。

 対して,タカタの経営陣はあまりにも残念なタイプで論外だが,日本企業が怠ってきたことはこの短文だけでもある程度読み取れる。

 サラリーマン型で年功序列や派閥の論理,あるいは世襲だけで伸し上がるいわゆる経営者,責任ある立場に着いてからも学ばない,グローバル大競争時代にいながら「井の中の蛙」程度の情報や知識しかない者は,起業家精神に燃え,絶えず学び,多面的な情報や多様な人材を生かし,猛スピードでチャレンジする者に太刀打ちできない,というのは日本に限らない常識である。

 加えて,個別事例の良し悪し以上に,電子化やAI化する最終製品のみではなく,基幹部品,関連ソフトやシステムを含むグローバルサプライチェーン全体の構築と運営のあり方など,戦略的な対応に怠る企業の代償は続く。

 詳細は近刊拙論を合わせて参照いただきたいが,経営とは,戦略とは,改めて考えてみたいものである。

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