世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.871

「一億総活躍社会」と「みんなにチャンス!構想会議」について考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2017.07.03

 2015年10月に発足した第3次安倍晋三第1次改造内閣は,「一億総活躍社会」という概念を提唱した。首相官邸のHPによると,一億総活躍社会とは「若者も高齢者も,女性も男性も,障害や難病のある方々も,一度失敗を経験した人も,みんなが包摂され活躍できる社会」,「一人ひとりが,個性と多様性を尊重され,家庭で,地域で,職場で,それぞれの希望がかない,それぞれの能力を発揮でき,それぞれが生きがいを感じることができる社会」,「強い経済の実現に向けた取組を通じて得られる成長の果実によって,子育て支援や社会保障の基盤を強化し,それが更に経済を強くするという『成長と分配の好循環』を生み出していく新たな経済社会システム」とのことである。このような社会システムを実現するために,担当大臣を新設した。そして,その翌年の2016年7月の参院選に臨み,自民党が大勝した。

 安倍首相は,2017年5月19日の通常国会後の記者会見で,「人づくり革命」を表明して,人材育成に力を入れる方針を明らかにした。さらに,この夏に有識者会議「みんなにチャンス!構想会議」を設立して,専門の担当大臣も設けるという。

 ここで思うことは,「一億総活躍社会」と「人づくり革命」の類似性である。「人づくり革命」では,幼児教育の早期無償化や高等教育の負担軽減に重点を置くという。また,社会人が再び学校に通って技能を高める「リカレント教育」も拡充するという。これらはまさに,先に挙げた「一億総活躍社会」の実現のために必要なものである。とすれば,この問題は「一億総活躍」担当大臣の下で,検討するのが妥当であり,新たな会議や大臣を設ける必要はない。

 このような会議の乱立は皮肉である。なぜなら,構造改革や成長戦略の名の下に行政が肥大化しているからである。構造改革や成長戦略の主目的は,規制緩和などを通じて,政府の介入を減らし,民間主導の持続的な経済成長を成し遂げることにある。その目的のために,政府がすべきことは,会議を乱立させて,行政を大きくさせることではなく,司令塔を一つに統一して,効率的に実施することである。

 また,成長戦略が小粒で介護,医療,年金などの社会保障にまったく切り込んでいない。それは,日本経済新聞2017年6月20日付け朝刊にあるように,成長戦略が政権の支持率の浮揚や選挙対策に使用されているためである。そのため,万人受けするものや抽象度の高いものになってしまい,具体策やそのために必要な財源となると話がまったく進まない。

 このような状況が示唆することは,学問の世界で望ましいとされる政策をいかに政府に採用させるかという視点である。成長戦略などの政策が政権の人気取りや議員の選挙目当てで行われるという前提で,どのようにして望ましい政策を実現するかという,政策のマーケティングやPRと政治経済的な視点の重要性である。

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