世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国における文化産業の発展と展望
(元金融機関 エコノミスト・東京大学 学術博士)
2026.01.19
1月8日付けの『日本経済新聞』によると,2025年の映画の世界興行収入で,中国のアニメ「哪咤之魔童閙海」(ナタ2,『ナタ 魔童大暴れ』)が首位になったという。ハリウッドの大作ではなく,中国のアニメ映画がトップになるのは異例で,その背景には,中国巨大市場の存在感だけでなく,デジタル技術の進歩やその活用の成果と受け止められている。
事実,アニメを含むコンテンツ産業は,中国文化産業の重要部分として急速に成長しており,中国国内だけでなく,海外市場にも活発に展開されており,上述の中国の古代神話をモチーフにした「ナタ2」は,マレーシアなどアジアでもヒットしている。以下では主に,新技術や若者に後押しされている中国の文化産業の発展動向と将来展望を紹介する。
インターネットとスマートフォンの普及は中国の文化産業に需給両面から活力と,新たなチャネルをもたらし,漫画・アニメ,オンラインゲーム,動画配信などのデジタルコンテンツ市場を急成長させた。2022年時点で中国のデジタルコンテンツ市場の消費者は4.8億人に達し,うち,コアユーザーは1.2億人規模とされている。中国政府は2035年に「文化強国」の実現を目標に掲げ,文化産業の発展を後押ししており,文化的ソフトパワーの増強と国際影響力の拡大を図られている。
2000年代初頭,中国の文化産業はまだ発展途上の段階にあり,自然発生的で無秩序な側面も見られたが,経済の高度成長に伴う国民の所得向上と内需拡大の必要性から,政府は文化産業を重要な成長産業として位置づけ,振興政策を展開してきた。2010年代以降,中国の文化産業の売上高は安定的に伸びており,2024年には約19.14兆元(約386兆円)と過去最高を更新し,2025年1~9月も10兆元を超えている(前年同期比7.9%増)。
中国の文化産業は,デジタルコンテンツ分野とクリエイティブサービス分野が急速に拡大している。特にデジタル出版やオンラインアニメ・漫画,短尺ドラマが急成長を遂げ,海外市場への展開も加速している。その主要な動向として次のようにまとめられる。
デジタル化とサービス化の進展
文化設備生産業の比率が低下する一方,デジタル技術を活用した「コンテンツ創作生産」,「クリエイティブ設計サービス」,「文化リリースチャンネル」などのサービス分野が急速に成長している。デジタル出版市場は2023年に前年比19.08%増と大幅に拡大し,オンラインアニメ・漫画などの新たな分野も急発展している。
海外展開の加速
中国発の短尺ドラマの海外収益は2023年7月から2024年7月にかけて約92.2%増加し,海外市場での成功が顕著である。モバイルゲームの海外収益も,2023年には世界のモバイルゲーム市場の27%を占めるにまで成長した。
大型投資・大型回収モデルの確立
近年,「大規模リクープモデル」が成立し,巨額の制作費が投じられたアニメ映画などが大きな興行収入を上げている(冒頭で触れた記録的な興業収入を上げた話題作「ナタ 魔童大暴れ」も代表例)。これは制作費を大幅に上回る収益を生み出すビジネスモデルが確立されたことを示しているとされている。
なお,「リクープモデル」とは,主に中国のデジタルコンテンツ業界(漫画,アニメ,ゲームなど)で提唱されている,「IP(知的財産)の価値を多角的に,かつ長期的に回収し,最大化する仕組み」を意味するもの。
政策的支援とIP発展の重要性
中国政府は国策としてアニメ産業を成長させるために税制優遇などの政策を実施し,国産アニメのクオリティ向上を後押ししている。近年の中国IPの輸出の拡大も顕著で2021年には輸入を超えたことが特筆に値する。
中国文化産業の堅調な成長の要因として,①巨大で旺盛な国内需要,②政府の支援と政策誘導の継続,③AI,5G,VRなどの先端技術の利活用の拡大及び新たなビジネスモデルや体験価値の創出,④デジタルコンテンツに対する積極的な消費マインドをもつ若年層の消費意欲の向上などが挙げられる。
一方で,中国文化産業は次のような課題にも直面している。①知的財産権の保護や法律・ルールの整備が追いついていない。②国内の地域格差や中小零細企業の資金調達難の対応不足。③企業家精神を持ったリーダー層,高品質なコンテンツ制作者,専門的な運営管理者人材の継続育成の強化,④観光業等との連携促進など。
中国GDPの5%弱(2023年4.59%)を占める中国の文化産業は,第15次5ヵ年計画期(2026~2030年)においても継続促進の政策方針が示されてり,今後も潜在性を発揮し,課題を克服しながら安定的な成長を続けられると思われ,多分野における対内外直接投資活動や企業間の国際連携が拡大するとともに,資本,技術,人材などをめぐる市場競争も激化するであろう。
また,「ナタ2」が世界の映画市場における米国の寡占状態に風穴を開けたと評された(前掲日経記事)ように,ソフトパワーの担い手として,日中韓などのアジア地域の若者主体の文化事業の発展と交流拡大は相互理解と親善醸成に役立つ重要な意義があり,また学び合うことによる共同発展も期待できことから大いに推進されるべきであろう。
[参考文献]
- 中藤玲「世界の映画興収 中国アニメ首位」『日本経済新聞』2025年1月8日(夕刊)。
- 邵永裕「新技術と若者が後押しする中国文化産業」,国際貿易促進協会『国際貿易』(2025年12月23日・2026年1月13日合併/第2471号。
- 邵永裕「中国文化産業の最新展望~DX化+新業態融合による発展が加速中」,みずほ銀行CHINA BUSINESS Monthly』2024年6月号。
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