世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4051
世界経済評論IMPACT No.4051

世界日本人起業家が集う祭典WAOJE:GVF 2025 in Dubai参加記

佐脇英志

(都留文科大学 教授)

2025.10.27

 2025年9月21日,海外日本人起業家のネットワークであるWAOJE(World Association of Overseas Japanese Entrepreneurs)のGlobal Venture Forum (GVF)2025に参加した。海外に散在する日本人起業家370人がドバイの地に集結し,3日間にわたって開催された本イベントは,終始,熱気と活気に包まれていた。

 近年,ドバイは富裕層の移住先として国際的に注目を集めている。2025年8月時点で総人口は400万人を超え,過去15年で実に2倍以上に増加している。ビル群が乱立する摩天楼には,世界一高い建築物「ブルジュ・ハリファ」(828m)や,世界最大の人工島「パーム・ジュメイラ」など“世界一”を象徴する構造物が並び立つ。平均年齢はおよそ31歳と若く,ほぼ無税ともいえる税制を背景に,世界中の富が集中し,高度成長を謳歌している。そしてWAOJE GVF 2025 in Dubaiのテーマ「The Top」は,まさに世界最先端の集いを象徴していた。

 WAOJE GVFは毎年開催されており,これまでに2018年プノンペン(カンボジア),2019年ゴールドコースト(オーストラリア),2022年バンコク(タイ),2023年ベンガルール(インド),2024年ハワイ(アメリカ),そして満を持して2025年の開催地が中東・UAE・ドバイである。

 大会前夜,約300人の日本人起業家が,ドバイ市街から6人乗り4輪駆動のランドクルーザー50台に分乗し,約1時間砂漠を駆け抜けた。砂漠のど真ん中に設営されたテントに集い,バーベキューと酒を酌み交わしながら名刺交換と世界ビジネスの情報交換が行われた。「そこに行かなければ分からない情報」が次々と飛び交い,起業家たちは情報収集に躍起となっていた。

 本会のキーノートスピーカーは,元サッカー日本代表でFIFAワールドカップに三大会連続出場した中田英寿氏,700人の社長を育てて100社を上場させたグローバルパートナーズ(旧アリババマーケティング)創業者社長の山本康二氏,そして世界的ベストセラー作家の本田健氏の三名である。

 中田氏は「失敗なんてない。全部“練習”だ!」と語り,「うまくいかないのは失敗じゃない。全部“練習”だと考えればいい」と述べた。恐れずに挑戦できるからこそ成長スピードは何倍にも加速するという言葉に,会場は深い共感に包まれた。

 山本氏は,アリババとの交渉の際,「孫さんに言われた」という“ブラフ”を突破口に活用したエピソードで聴衆を沸かせた。さらに,ドバイで挑戦した空港都市プロジェクトに私財数十億円を投入したが,結果として毎日赤字となり数十億円が沙漠(さばく)に消えたという。「失敗の中にこそ,未来を変えるヒントがあるんだ」と強調した。

 本田氏は,資産とは「好きな時に,好きな人と,好きな方法で,好きなだけできること」であり,人生を豊かにするものであると説いた。そしてグローバルの場で大切なのは,スキルや語学だけではなく「人間的魅力」だと力説した。

 さらに,世界各地から多数の講師が登壇し,合計十二のテーマ別セッションが開催された。内容は,海外日本人起業家の経験・知見であるが,ジャパニーズコンテンツのグローバル展開,上場企業社長の経験,海外女性起業家の実体験,ドバイ・中東起業家の体験談,不動産・税務を含むドバイビジネス解説,日本食・酒の海外ビジネス展開,生成AIのグローバル展開,アフリカビジネスの最前線など,多岐にわたった。いずれも現地でビジネスを実践しなければ得られない生の情報が満載で,集まった起業家たちは食い入るように聴講し,講演後も質問が絶えなかった。国内でよく見られる講演会とは一線を画す活発な交流の場であった。

 WAOJE GVF 2025を主催した実行委員長,森和孝氏は,Eminence Luxe(ドバイ不動産)CEOであり,国際弁護士でもある。氏のスピーチで紹介された「今回の参加者の移動距離の合計は約300万キロ,地球を75周,月まで7往復できる距離」と述べ,この数字は改めてWAOJEの広がりを実感させるものであった。現在,WAOJEは国内外に計35支部を擁し,会員数は800名を超えるという。また,上海支部およびオランダ支部の設立調印式が今回のドバイ会場で行われ,WAOJEのグローバル展開がさらに進んでいる。世界各地の日本人起業家が集ったWAOJE GVF2025であるが,参加者からは「中東へのイメージが一新された」「本気で進出を検討したい」との意欲的な声が数多く寄せられた。大会を通じて何度も口にされた標語「日本のために,日本を出る」は,彼らの熱い想いを象徴している。パスポート保持率が17%という内向き傾向にある日本社会にとって,これら起業家たちはまさに最高のロールモデルとなる存在であった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4051.html)

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