世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の消費者物価と金融政策
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.12.02
平均値と中央値の上昇率の乖離
11月22日発表の日本の10月分消費者物価指数によれば,生鮮食品を除いた総合は,前年同月比+2.3%と前月の+2.5%から下がったものの,2022年4月以来,2%以上での推移が続いています。一方,基調的インフレ率の指標である消費者物価指数加重中央値の前年同月比上昇率は,10月には+0.8%に留まっています。2021年末までほぼ0%近辺にあったものが,その後上昇し,2023年10月には+2.3%に達しました。しかし,そこから低下に転じ,今年8月からは1%を下回っています。加重平均値である総合指数の上昇率との差が開いていることは,一部品目の価格が大きく上昇している一方,他の品目には波及していないことを示唆しています。
食料,エネルギーの価格水準上昇
実際,2021年からエネルギー,食料の価格が急上昇した一方,それ以外の品目の上昇は,全般的には緩やかです。食料(酒類を含む)とエネルギーを除く総合指数の前年同月比上昇率は,10月には+1.6%と6ヵ月連続で2%を下回っています。日銀は2%インフレを金融政策の目標としています。食料,エネルギーの価格上昇によって平均値のインフレ率が2%を超えていても,物価上昇に拡がりが見えない点では2%インフレが定着したとは言えず,日銀が利上げにあまり積極的ではないことも理解できないことではないでしょう。
ただ,食料やエネルギーなどの生活必需品の価格が上昇すると,家計は購入量を減らしにくく,負担が増します。また,一旦急上昇した後に上昇率が鈍っても,価格水準上昇の影響は残ります。2020年12月の水準と比較すると,2024年10月には食料は21.9%,エネルギーは22.0%高くなっています。低所得層は消費支出に占める生活必需品の比率が高い傾向があるため,必需品の価格上昇による負担が相対的に重くなるという問題もあります。
物価上昇による非耐久財支出比率の上昇
GDP統計の中の国内家計最終消費支出の内訳を見ると,食品,エネルギーに類するものが多く含まれる非耐久財の実質消費支出は,2000年代前半以降,減少しています。ピークだった2004年7-9月期の水準を,2024年7-9月期には9.1%下回っています。しかし,非耐久財の価格上昇により,名目支出は2010年頃から増加基調になり,特に,コロナ禍後に急増しています。2024年7-9月期には2004年7-9月期の水準を26.0%上回っています。それに伴って非耐久財の国内家計最終消費支出に占める比率は上昇しました。コロナ禍前の2019年には27.7%であったものが,2024年7-9月期に29.7%に上昇しています。必需品を多く含む非耐久財の価格上昇によって家計の負担が増し,それ以外の消費支出が抑えられていることがうかがわれます。
政府は,エネルギー関連品目への補助金,減税,給付金支給などで家計を支援していますが,財政負担が増しています。また,食料,エネルギー以外の物価上昇が緩やかな上,消費需要が弱い中,企業の賃上げ余地は限られています。家計のためには,日銀は2%インフレの目標を当面棚上げにして,食料・エネルギー価格上昇の背景にある円安に歯止めをかけるべく,円の信認回復のために利上げを進めた方が良さそうです。
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