世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3422
世界経済評論IMPACT No.3422

途上国が発言力を高める世界のエネルギー需給動向

武石礼司

(東京国際大学 特命教授)

2024.05.20

途上国の発言力の大幅な向上

 コロナ禍の終息という朗報の一方で,世界各地での深刻な戦闘が生じている。危機的と言わざるを得ない世界情勢にある中,特に注目されるのが,発展途上国の存在感が大幅に増大しているという点である。

 一例としては,発展途上国のリーダー国をメンバーとするBRICSを見ると,従来からのブラジル,ロシア,インド,中国,それに南アフリカに加えて,イラン,サウジアラビア,UAE,エジプト,エチオピアが2024年から参加しており,メンバー国数は10か国に増えている。参加国数が増えれば増えるほど,発言力は高まっている。

 発展途上国は,自国の発展,国富の増大,産業の育成と,さらに先進国に少しでも追いつき,自らも先進国入りを目指すという目標を持っている。また,政権の安定,安全保障も重視している。こうした中,国際協力,さらに地球環境問題への取り組みなどは,発展途上国においては,中心的な課題となっておらず,先進国の負担で資金が得られればその分は取り組もうというのが基本的な立場となる。

 地球環境問題を討議する2023年の国連気候変動枠組条約会議(COP28)は,UAEのドバイで開催され,議長はジャーベルUAE産業・先端技術相兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)最高経営責任者(CEO)が務めた。欧州諸国が中心となって進められてきた地球環境問題を討議する会合の議長を,中東のADNOCのCEOが務めたという点は,発展途上国の力がますます高まる傾向を象徴していると言える。

世界のエネルギー需給から見る途上国の役割の重要性

 毎年のCOP会議においては化石燃料をフェーズアウトさせる提言がなされてきた。しかし,世界のエネルギー需給の現状は,81.8%を化石燃料に依存している(2022年データ,以下同じ)。埋蔵量も中東・北アフリカ(MENA)の合計のみで,世界の石油の52%,天然ガスで43%を占めており途上国の比率が圧倒的に高い。

 世界のエネルギー供給量(生産量)を見ると,OECD諸国は,石油で31.4%,天然ガスで39.3%,石炭で17.1%,発電量で38.9%を占めるに止まり,途上国の比率がさらに年々高まっている。

 世界のエネルギー消費量(熱量換算)は,OECD諸国が38.8%で少数派であり,発展途上国が61.2%となっている。OECDの占める比率をエネルギー源別に見ると,石油46.1%,天然ガス45.6%,石炭17.9%,原子力66.8%,水力32.5%,再生可能エネルギー52.1%である。わずかに原子力と再生可能エネルギーの導入比率においてOECD諸国は,途上国を上回っているに過ぎない。

 今後この比率は,高い経済成長と,人口増により,途上国側で増大するのは間違いなく,新規のエネルギー関連投資は途上国向けが世界市場を席巻していくと予測される。

 OPECの中長期予測においては,2045年に向けて,世界の消費量は,石油が年率0.7%で増大を続け,天然ガスも年率1.2%で増大を続けるとの予測が出されている(2023年版)。

 このように途上国側は,OECDの国際エネルギー機関(IEA)等が出している世界の石油・天然ガス消費量が減少に向かうとの予測を真っ向から否定している。

 昨年のCOP28で示されたように,ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)に対応する資金措置および基金の設定に関しては,着々と途上国の主張が通っており,先進国側は,途上国の1.5℃目標の達成のために年間1兆ドルの資金拠出を途上国側から要請されている状況がある。

 途上国は,先進国側から資金が得られた分だけ,再エネ,省エネを進めようとの立場にあるのであり,このような状況を見ると,1.5℃目標は今後2年か3年で破綻せざるを得ないとの見方も出されるようになってきているのが現状である。

日本の取り組みの在り方

 OECD諸国の環境派の人々は,COP28で提示された再エネ3倍,省エネ2倍の目標に取り組むべきだと主張するが,実際の世界の動きは,途上国の主張に従うようになっており,先進国側が支払える資金に応じた,再エネ・省エネが途上国で実施されると見ることが必要となっている。

 日本政府は,ウクライナ支援を始めとして,対外的に多くの資金の支出を続けており,国内向けには,ステルス増税と言われる法律改正を経ないでできる多額の実質増税が行われ始めており,中小企業では賃金引き上げに取り組むことがますます難しくなり,経済成長率が低下する厳しい状況が出現してしまっている。

 2030年に向けたエネルギー基本計画の作成においても,政府が取り組むべき第一の方策は,既存原子力発電所の安全な稼働再開など,確実に実施できる措置の積み上げであることは間違いない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3422.html)

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