世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3414
世界経済評論IMPACT No.3414

4番目のトランプ起訴:ジョージア州大統領選挙介入事件

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2024.05.13

 今年は1788年6月の米国憲法制定から236年目(但し権利章典10ヵ条の制定は1791年12月)。大統領はバイデンで46代目だが,45代トランプ大統領(以下,トランプと略)がいま米国史上初の刑事裁判で被告席に立っている。裁判では,大統領としての品位も名誉もなく暴言を吐き続け,箝口令違反で罰金を科された。裁判長はトランプが違反を続ければ,次は収監すると忠告している。

トランプとともに共同謀議の18人も起訴

 ジョージア州大統領選挙介入事件とは,トランプとその協力者18人が,2020年11月のジョージア州の大統領選挙結果に介入し,トランプを当選させ,バイデンを落選させようと画策した事件である。トランプは2021年1月2日,大統領選挙の管理責任者ラフェンスパーガー・ジョージア州州務長官に電話し,「自分を当選させるように11,780票を付け替えろ」と脅迫した。この悪名高い電話が事件を象徴する。電話は録音されており,否定しようのない事実なのだが,トランプは無実を主張している(詳細は本コラム2022年5月23日付No.2547参照)。

 事件の捜査はジョージア州フルトン郡ファニー・ウィリス地方検事が開始し,州大陪審の審議を経て2023年8月14日,トランプをマフィアのボスなどを摘発するジョージア州恐喝腐敗組織法(RICO)違反,公務員の宣誓違反勧誘など13件の重罪で起訴した。この事件は他の3件のトランプ刑事事件と異なり,トランプ一人だけでなく,ルドルフ・ジュリアーニー(元ニューヨーク市長,トランプの個人弁護士),ジョン・イーストマン(弁護士,元法学部教授,トランプが敗北した州で偽の選挙人を擁立して虚偽の選挙人名簿を作成),マーク・メドウズ(トランプの首席補佐官)など,トランプの協力者18人も同時にそれぞれの罪状で起訴された(合計すると罪状は41件)。

 この18人のうちシドニー・パウエル(弁護士)など4人は有罪を認め,裁判への協力に同意した。また,2024年3月,フルトン郡高等裁判所のスコット・マカフィー判事は根拠不十分として合計6件の起訴を取り消したため,罪状はトランプ10件,ジュリアーニ―10件などとなった(罪状41件は変わらず)。この事件でトランプ側のスティーブン・サドウ主任弁護士はマカフィー判事の決定を歓迎しているが,これで事件の核心が弱められたわけではないとされている。なお,取り消された容疑を検察が再度提起する可能性もあるという。

ウィリス検事解任工作の顛末と今後の影響

 トランプ側はこの事件でトランプらが起訴されると,ウィルス検事の解任を求めて,被告18人のうちの一人,マイケル・ローマン元トランプ選挙対策委員が2014年1月8日,ウィルス検事と年収65万ドルで同検事の下で働いているネイサン・ウエイド検事との個人的な関係を暴露し,両者の関係と裁判の行方は利益相反の関係にあると申し立てた。その後,両検事は相互の個人的な恋愛関係を認めたが,両者の高額の休暇旅行の費用がウエイドの収入から出された疑いが出され,ウィルス検事はこれに激しく反駁した。

 3月15日,マカフィー判事はこの審理に判決を下し,23ページの判決書を公表した(注1)。結論は次の通りである。①ウィリス検事とウエイド検事との行動には重大な判断の誤りがあり,審理中に行われたウィルス検事の激しい証言は職業倫理に反する。②しかし,利益相反を理由とするウィリス検事の解任には十分な根拠はない。③ウエイド検事が事件から離れるか,ウィルス検事オフィス全体が辞任するまで,起訴は保留すべきである(注2)。

 この判決に基づき,ウエイド検事は3月15日付でフルトン郡地方検察局特別検察官を辞任し,ウィリス検事は事件の追及を続けることになった。結局,トランプ側が狙ったウィルス検事の解任は実現できなかった。トランプ側のサドウ主任弁護士は,マカフィー判決に不満を表明し,「利用可能なすべての法的選択肢を行使する」と述べ,裁判で判決が出てもジョージア州控訴裁判所に申し立てを行うことを強く示唆した。

 しかし,ローマン・トランプ選対委員の申し立てから始まった一連の審理によって,ウィリス検事は個人生活が暴露され,何週間にもわたる不名誉な公聴会にさらされ,その信任に傷がついた。しかも,この事件の判決が11月の大統領選挙前に下される可能性もほぼなくなった。ウィルス検事解任には失敗したが,トランプ弁護団は十分に実を取ったことになる。ニューヨークタイムズ(NYT)は,これで有罪判決はさらに難しくなったと報じている。正に,トランプ・チーム恐るべし,である。

[注]
  • (1)マカフィー判決の詳細な解説は2024年3月15日付NYT 電子版 “Highlights of the Judge’s Decision in the Georgia Trump Case” 参照。
  • (2)本節の記述は3月15日付NYT電子版 “The Accusations Against the Atlanta Prosecutor Fani Willis: What We Know” に依った。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3414.html)

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