世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3356
世界経済評論IMPACT No.3356

賃上げとマイナス金利解除後の日本経済

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2024.04.01

実質雇用者報酬の回復はなるか

 家計の主たる所得源である雇用者報酬は,物価が大きく上昇したことで実質的に目減りしてきました。春闘で高水準の賃上げが相次ぐ中,今後は雇用者報酬が物価上昇を上回るペースで伸び,実質増大に転じるのかが注目されます。持ち家の帰属家賃分を除く家計最終消費支出のデフレーターは,2023年10-12月期には前年同期比+3.3%と,7四半期連続で3%を上回る伸びとなりました。ただ,前期比年率換算値は+1.1%に留まっており,物価上昇ペースが鈍ってきたことをうかがわせます。前年同期比上昇率は,今年4-6月期までに2%を割りそうです。一方,雇用者報酬は,10-12月期には前年同期比+1.3%と,昨年の春闘から既に賃上の機運がかなり高まっていたわりにはあまり増えていません。大企業に比べて中小企業の賃金上昇率が低いことや,相対的に賃金水準が低い女性や高齢者が雇用者に占める比率が上昇していることが影響しているようです。賃上げによって今後,雇用者報酬の伸びが多少高まり,上に述べたように物価上昇率が低下しても,物価を割り引いた実質ベースでの雇用者報酬は,減少が止まる程度がせいぜいでしょう。

実質家計最終消費支出の減少が続く

 実質家計最終消費支出は,昨年10-12月期には前期比年率換算−1.0%と,3四半期連続で減少しました。最近の消費関連指標の動きを見ると,実質家計最終消費支出は1-3月期も減少しそうです。上に述べたように,雇用者報酬が実質ベースで大きく増えることは難しそうですが,6月からの所得税・住民税定額減税によって実質家計可処分所得のかさ上げが見込まれます。一方,GDP統計ベースの家計貯蓄率は,物価上昇で支出がかさんだことで,マイナスまで低下しました。しかし,節約志向の高まりによって今後は上昇に向かうことが予想されます。このため,減税によって実質家計可処分所得が増えても,実質家計最終消費支出の減少が続きそうです。

金利上昇余地は乏しい

 3月19日の日銀のマイナス金利解除は,2013年にアベノミクスのもとで始まった異次元緩和の終結宣言と言えます。名目GDPの前年同期比成長率は,昨年1-3月期に+4.9%と,コロナ禍の反動増を除けば1991年10-12月期以来の高さになった後,昨年10-12月期まで5%を超える伸びを続けてきました。高い名目GDP成長率が昨年を通して続いた点から見れば,異次元緩和の終結は遅すぎたのかもしれません。

 ただ,実質GDPの方は,昨年7-9月期の前期比年率換算−3.2%の後,10-12月期も+0.4%と弱い伸びにとどまりました。1-3月期は自動車の生産減少などで再びマイナス成長になりそうです。景気が減退する中,インフレ率も低下が予想されます。昨年の名目GDP成長率の上昇は一時的なものであり,今後は年率1%程度の成長という過去20年のトレンドに収れんすると見られます。そうすると,政策金利である翌日物無担保コール金利は,0~0.1%という新たな目標レンジから大きく引き上げられることはなさそうです。長期金利の指標である10年物国債利回りも,現状の0.7%台から上昇する余地は乏しいでしょう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3356.html)

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