世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3338
世界経済評論IMPACT No.3338

中国:なぜ民間企業は復活しないのか?

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2024.03.18

 2020年から2022年のほぼ3年間,中国は新型コロナ対策として都市封鎖,一部の地域封鎖を継続的,断続的,時には大規模に実施してきた。それにより民間の中小企業,町の飲食店から沿海部の町工場などは大打撃を被った。繰り返される対コロナ封鎖策は人々の反発を生み,中国は2023年から正常な経済活動を認めることとなった。

 しかし,2023年初頭から現在まで,民間企業の苦境は続いている。その理由としてよく言われるのが民間企業の経済への信頼感(confidence)が回復しないという点である。なぜ信頼感が取り戻せないのだろうか。その原因は政府の不規則な関与があり,先を見通す安定した経済環境を提供できていないという点である。以下,報道から事例をいくつか紹介しよう。

 中央政府の混乱したメッセージがある。2021年12月の中央工作会議では,民間資本の膨張をコントロールすることを名目に,青,黄,赤という「交通信号」方式による管理がうたわれた(Tang 2022)。一方で,民間企業を支援するために2023年7月には「民間経済の発展と成長の促進に関する意見」にて31項目の具体的な措置が発表された。しかし,中には民間企業の党員を積極的に教育する方針が示され,企業への思想的な締め付けがみられる(Zuo 2023)。

 それに伴う中央政府の世論の誘導がある(Zhou 2023)。中国指導部は,2024年に経済に関するプロパガンダを改善し,国の未来が「明るい」ものであるという図式を宣伝すると公言している。もちろん根拠に基づかない「崩壊」などの報道は誤った認識だが,経済に関する負のニュース(失業率統計の修正など)を管理することは,投資家や企業家のリスクや現状判断を誤らせる恐れがある。加えて,国の「肯定的」なストーリーや上昇傾向の数値に関する報道を信頼しなくなっている。

 反腐敗闘争も強化されている(Zheng 2024)。習近平の習近平の「トラ(高官)」叩きが加速し,昨年は45人の高官が腐敗で拘束,取り調べにあっており,近年まれにみる取り締まり強化が進んでいる。貴州省では,無駄な公共事業を行ったという名目でトップがつかまり,また同省六盤水市で,建設資金の回収を地方政府に請求していた実業家の女性が逮捕され,ネットでも注目された(Nulimaimaiti 2024)。

 地方政府の罰金・手数料徴収が増加している(Sun 2024, Lee 2023)。税収減や土地売却収入の減少による地方財政悪化から,地方政府は企業資産の差し押さえ,罰金や手数料徴収で収入を増やそうとする傾向が強まっている。2020年から2022年までの罰金・手数料収入は25.9%増加したといい,これらは2022年の総財政収入の4.2%を占めているという。中央政府は,過剰な徴収は企業活動への悪影響や景気回復の妨げになると懸念している。

 一方で,地方政府は輸出をする民間企業に支援を申し出ている(Chen 2023)。民間企業に電話をかけ,輸出に対する補助金等などの支援をちらつかせて,成長目標を底上げするよう促している。地方政府による過剰な介入は,企業の自主性を損なう可能性があること,また輸出業者にとって,戦狼外交をやめ,中国と西側諸国との関係を改善することだと指摘する声もある。

 最後に,政府のふるまいではないが,政府のプロパガンダ教育によって生まれた愛国者による企業への攻撃が指摘できる(Zuo 2024)。大手飲料の農夫山泉が,デザインが日本風である,娃哈哈創業者との確執があった,息子がアメリカ国籍を持つ,というところから,オンライン上で愛国者から攻撃を受け,実際の売り上げに影響が出るとともに,株価が下落した。

 このように政府の過度な関与が民間企業に対して自由な経済環境を提供できていないことが,昨今の民間企業の回復の遅れにつながっている。

[参考文献]
  • Chen, Frank (2023) ‘Get bolder, please’: China’s economic powerhouses go all out to lift exports amid Beijing’s urge for more responsibilities, South China Morning Post, 27 Dec, 2024
  • Lee, Amanda (2023) China’s market-meddling cadres warned: no ‘inappropriate interference’ that affects economy, South China Morning Post, 19 Oct, 2023
  • Nulimaimaiti, Mia (2024) Chinese businesswoman’s arrest after demanding US$30 million in arrears from local government triggers investigation, public outcry, South China Morning Post, 29 Feb, 2024
  • Sun, Luna (2024) China warns localities not to use fines for funds, pledges ‘strict’ regulation, South China Morning Post, 22 Feb, 2024
  • Tang, Frank (2022) China’s ‘rattled’ private firms with little confidence await signs, reassurances that some fear will not come, South China Morning Post, 18 Oct, 2024
  • Zheng, William (2024) ‘No one is safe’: China purges record number of senior officials in 2023, with more ‘tigers’ likely to fall, South China Morning Post, 3 Jan, 2024
  • Zhou, Xin (2023) China’s desire for a fair narrative on its economy must not turn into a complete purge of ‘negative’ views, South China Morning Post, 19 Dec, 2024
  • Zuo, Mandy (2023) Will China’s private firms fly higher, freer under new action plan as Beijing calls for ‘fresh troops’?, South China Morning Post, 21 Jul, 2024
  • Zuo, Mandy(2024) China’s nationalists put water firm Nongfu Spring under fire, dousing private sector’s flickering confidence, South China Morning Post, 11 Mar, 2024
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3338.html)

関連記事

岡本信広

最新のコラム