世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
デフレが続く中国経済
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.01.29
3%台に留まる名目GDP成長率
1月17日発表の中国の2023年10−12月期GDP統計によれば,実質GDPは前年同期比+5.2%と,7−9月期の+4.9%を上回りました。ただ,前期比では+1.0%と前期の+1.5%を下回っています。名目GDPは前年同期比+3.7%と前期に続いて3%台に留まっています。名目GDPを実質GDPで割ることでGDPデフレーターを算出すると10−12月期は前年同期比−1.4%となり,3四半期連続でマイナスとなっています。
中国ではデフレが続いており,経済の実態は実質GDP成長率が示すものより弱いことがうかがわれます。GDPデフレーター上昇率は,2017年には4%台であったものがコロナ禍前の2019年には1%前後にまで下がりました。コロナ禍のもとでの供給制約などにより2021年には一旦6%程度まで上昇しましたが,その後再度下落しました。そうした動きから見ると,中国のデフレはコロナ禍の影響というよりも,コロナ禍前から進んでいた不動産バブルの崩壊などに伴って過大になった負債の調整過程で生じていると捉えられるでしょう。その点では,デフレ解消にはかなり時間がかかりそうです。
中国経済のプレゼンス低下
名目GDP成長率の鈍化に加えて,人民元が米ドルに対して下落したことで,米ドル建てに換算した中国のGDPは2022年後半頃から減少しました。中国のGDPの米国に対する比率は,一時75%以上に達したものが,足元では65%程度にまで低下しました。米中の経済覇権争いで水をあけられ,中国経済の相対的プレゼンスが低下しています。
中国の景気を刺激し,デフレを止めるためには,人民元の米ドルに対する下落を容認せざるを得ないでしょう。中国の米ドル建てGDPは,デフレが続くにしても人民元が米ドルに対して下落するにしても,いずれにせよ当面増えにくいと考えられます。
世界に及ぶドル建て中国GDP鈍化の影響
中国経済のプレゼンスの低下は,米中の経済覇権争いの観点だけでなく,世界経済の景気・物価動向にも大きな意味合いを持っています。米ドル建ての中国名目GDPの増加率と,世界の景気・物価の先行指標と考えられる国際商品価格指数の上昇率には相関があり,近年,中国名目GDP増加率が国際商品価格にやや先行する傾向があります。中国の名目GDP成長率の伸び悩みや人民元安は,世界的には景気鈍化・インフレ率低下要因となることがうかがわれます。
こうした状況に,米国の景気鈍化とインフレ収束に伴う米金利低下による米ドル安圧力が加わると,これまで極めて割安だった円が上昇すると予想されます。中国,米国の双方と密接な経済関係を持つ日本の景気や物価に,大きな影響が出ることは避けられないでしょう。
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