世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
北欧の不動産市場が抱えるリスク
(東洋大学経済学部 教授)
2023.12.25
弱まる北欧の住宅市場
スウェーデン銀行協会のThe Mortgage Market in Sweden 2023年10月号によると,スウェーデンの2023年の住宅建設は2022年比で55%減が見込まれ,住宅価格指数は2020年以降マイナスが続いている。同様の傾向はEuropean Mortgage FederationやGlobal Property Guideでも指摘されている。デンマークやフィンランドの住宅価格も2022年をピークに下がり続けている。ノルウェーは0.4%の微減,アイスランドは2.3%上昇しているが前年同期の22.6%上昇からは急減速している。この背景には,各国での政策金利の引き上げがある。
家計の脆弱性
北欧では新規住宅ローンで変動金利の選択が増えている。スウェーデンでは2023年上半期は新規住宅ローンの80%,フィンランドでは95%が変動金利の借り入れになっている。インフレは徐々に終息していくという見方が多いものの,依然としてインフレ率は政策目標を上回る水準であり,物流の停滞や気候変動がインフレ率を高止まりさせるリスクもある。さらなる引き上げの可能性も考慮すべきであろう。政策金利が見込み通りに下がらなければ,住宅ローンの金利負担は家計に大きくのしかかることになる。
北欧の住宅市場はリーマンショック以降の低金利時代に大きく成長した。しかし,その過程で,スウェーデンでは返済期間が100年を超えるローンが登場したり,デンマークでは表面上の金利がゼロやマイナスのローンが登場したりした。頭金規制などの対策が採られたものの,スウェーデンの家計債務比率は200%に近づいており,北欧各国で家計債務が増大している。
家計債務の大部分は住宅ローンであるが,KlarnaなどのBNPL(後払いサービス)などを用いた消費ローンも増えている。BNPLの多くは販売店からの手数料で決済手数料を賄っており利用にとっては無金利だが,返済期限を過ぎると有金利ローンになり,金利負担が発生する。BNPLの利用残高の増加と返済の遅延が世界的に問題になりつつある。家計の脆弱性が高まりつつあるといえる。
住宅市場から国際金融市場への波及リスク
北欧諸国は人口が少なく,最小のアイスランドは30万人,最大のスウェーデンでも1000万人しかいない。北欧の金融市場は発達しているものの,住宅ローンの資金調達は国外へのカバードボンドの販売にも頼っている。スウェーデンでは約30%のカバードボンドが国外で販売されており,国内の住宅市場の変調が国際金融市場に波及しやすい構造となっている。金融市場の脆弱性も無視できない。
住宅ローンの返済問題はリーマンショックの原因であるが,住宅ローン債権が証券化されて国際的に販売される構造は現在の北欧と共通している。北欧経済の規模は小さいものの,同じく経済規模の小さいギリシャの財政問題はヨーロッパ経済を大いに揺るがした。北欧での家計と金融市場の脆弱性はヨーロッパ経済だけでなく,世界経済のリスクの1つであり,今後も注視していく必要がある。
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