世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2971
世界経済評論IMPACT No.2971

世界への日本の貢献

高多理吉

(富士インターナショナルアカデミー 校長)

2023.05.29

 明白な国際法違反のもと,正義も大義もないウクライナ侵攻という暴挙が,ロシアによって実行された。戦争の先行き,戦争の終らせ方,戦後のありさまは誰にも正確な予測ができないまま推移している。超大国アメリカの政治混乱,景気後退。中国の金融危機,不動産バブル崩壊。世界各国では政変,紛争が絶えず,グローバリゼーションも崩壊の危機に直面していることなどを考えると,世界は大乱の中にあると言えよう。

 大乱の中で,気候変動による危機は,各地で,風水害,大干ばつ,森林火災,記録的積雪,竜巻など人類に甚大な被害を及ぼしている。

 筆者は,このままでは,現世代が気候変動による人類の滅亡を経験することになると強く危惧している。各国はCO2の削減目標を掲げているが,災害のスピードに追い付けず,かつての緑の美しい環境を取り戻せるとは思えない。世界が連帯し,全力を傾けて課題に取り組まなければ手遅れになるのである。そこに,我が国がリーダーシップを取り得る余地があると考える。

日本の技術力と国際的連帯による希望

 我が国は,環境改善に向けた最新の技術力を持っており,今こそ,国際的な連携の体制を整えるためのリーダーシップを取るべきではないかと考える。そこに未来への希望が見えてくる。以下は,世界に誇り得る我が国の画期的技術である。

①CO2削減技術

 地球温暖化の主原因である大気中のCO2を削減することは,気候変動の最大の課題である。三菱重工グループの三菱重工エンジニアリング株式会社は,煙突からのCO2回収実験を,2021年,ノルウェーの世界最大級CO2回収実験施設での実証を行った。結果,世界最高水準となる99.8%の回収率を達成した。同社は,関西電力と共同開発した,より高度のものを商業化し,アメリカ・欧州においても事業の拡販を実施していくことになっている。

②画期的な海水淡水化技術

 大渇水による断水を経験した福岡市は,日本最大の海水淡水化設備(日産5万トン)を持っている。これに山水などのミネラルウォーターを加えて,水道水として市民に提供している。実は,筆者も毎日その恩恵にあずかっている一人である。世界では約21億人の人が安全な飲み水を確保できていないとされており,大干害の地域では水問題が深刻な問題となっている。この問題の切り札が新規の海水淡水化技術である。日立造船や信州大学などで,より,進化した淡水化技術を成功させているが,さらに画期的な技術が東京大学の研究グループによって開発された。東大の技術が実用化されれば,これまで目指してきた技術の4500倍のスピードで淡水化が可能となり,世界に多大な貢献が可能となる。

③台風でも発電可能な羽根のない風力発電機

 海水淡水化を可能にするには電力が必要である。㈱チャレンジャーは台風でも発電可能な,羽根のない「垂直軸型風力発電機」実用化した。同機は羽根のない垂直型風車で,いかなる方向からの風にも対応でき,円筒が回転することによって発電でき,風速によらず安定的な回転数を制御できる。2018年に石垣島で実証実験を開始し,2021年からフィリピンで稼働している。両方とも台風通過時も正常に稼働し発電を続けたといわれる。

④画期的な太陽電池

 開発したのは,桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授であるが,パナソニックと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共同開発で,実用化に向け進展を見た。従来型太陽電池とは異なり印刷によって直接基板に層材料を塗布でき,厚さは薄く,しかも,折り曲げることも可能で,ビルの壁面を同太陽電池で覆うことも可能である。近年20%を超える変換効率が達成されており,従来の太陽光発電では設置が困難な場所への適用に大きな期待が持てる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2971.html)

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