世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
低成長かつ不安定なコロナ後の世界経済
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2023.05.01
4月11日に発表されたIMF世界経済見通しでは,今年の世界の実質GDP成長率が1月時点の見通しより下方修正されたことに世間の関心が集まった。ただ,個人的にはコロナ後の世界経済のトレンドを判断する上で,2028年までの中期見通しの方に注目している。
2022年を起点にした2028年までの6年間の世界の実質GDP成長率は年平均3.0%と,コロナ禍前の2013〜19年の平均3.4%を下回る見通しとなった。また,コロナ禍前の2019年10月時点見通しにおける2019〜24年の平均3.5%の予想も下回っている。先進経済と新興・発展途上経済(以下新興経済)に分けると,先進経済の成長率は2022〜28年の予想が平均1.6%と,2019年10月時点の2019〜24年予想とほぼ同じとなった。一方,新興経済は2022〜28年の予想が平均4.0%と,2019年10月時点の2019〜24年予想の4.8%を大きく下回った。コロナ禍だけでなく,ウクライナ紛争などによる資源制約,地球温暖化を抑制する上での環境制約,米中対立などによる世界経済の分断化などの様々な要因が,新興経済の中期経済成長を抑制する方向に働くと考えられる。
新興経済を,さらに,中国,中国以外のアジア,アジア以外に分けると,中国と中国以外のアジアのGDPの世界シェアは,2022年推計値のそれぞれ18.5%,14.3%から2028年には19.7%,16.6%へと上昇する見通しである。ただ,2019年10月時点の見通しでは2024年にそれぞれ21.4%,17.2%と予想されていたことと比べると,シェアの拡大ペースは下方修正された。それだけアジア経済が世界経済の成長をけん引する力が低下していると言えよう。一方,アジア以外の新興経済のシェアは,2022年推計値の25.5%から2028年には25.2%と若干低下する見通しである。アジアにとって代わる新たな世界経済のけん引役は乏しいようだ。
世界経済の成長トレンドの低下に,経済政策で対応することは難しいだろう。米欧など主要経済の金融政策は,インフレ抑制のために引締め姿勢にある。このため,当面の世界景気はIMF見通しより下振れする公算の方が大きいと見られる。
また,世界的に財政状況はコロナ禍前より悪化している。中央政府,地方政府,社会保障基金の合計である一般政府の財政赤字と政府債務残高のGDP比は,先進経済では,2019年にはそれぞれ3.0%,104%であったが,2022年には4.3%,112.5%に拡大したと推計されている。新興経済でも同時期に4.5%,55.1%から5.2%,64.6%へと拡大したと推計されている。財政状況が悪化した分,財政政策発動の余地は小さくなっている。新興経済の中には国内資本市場が未発達で,財政赤字のファイナンスを海外からの資金調達に依存している所も多い。米欧などの金融引締めによって資金調達が困難になると,金融・通貨危機に陥りやすい。財政刺激策を打つどころか財政引き締めを迫られ,景気失速を余儀なくされる可能性がある。
コロナ後の世界経済は低成長で推移し,かつ金融・通貨危機などが生じやすい不安定な状況が続くと予想される。
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