世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2912
世界経済評論IMPACT No.2912

世界で活躍する日本人起業家の息吹の再生:Global Venture Forum 2023に参加して

佐脇英志

(都留文科大学 教授)

2023.04.10

 2023年2月10日~11日にWAOJE GVF(世界日本人起業家組織Global Venture Forum)2023がバンコクにて開催され,私も出席したのでその状況を報告する。イベントには世界で活躍する日本人起業家約350人が集結。去年完成し11月にAPECバンコク2022が開催された巨大な国際会議場,クイーンシリキット(QSNCC)に,世界中から日本人起業家達が出会いや学びを求めて集まったのである。

 フォーラムの登壇者だけでも,アセアン諸国,インド,中国を初め,ヨーロッパ,オーストラリア,USAなどの西欧諸国,中近東やアフリカ,そして地球の裏側の南米からも日本人起業家達が駆け付けて講演した。中でも特筆すべきは現在戦闘状態に陥ったミャンマーから駆けつけた5人の起業家である。彼らは秘密警察の監視下でSNSすら傍受されているが,彼らの生の悲痛な語りは,今まさに何が行われているかを明らかにした。また,日本人スタートアップ初の東南アジアIPO企業VENTENY社の和出純一郎氏の講演も興味深い。VENTENY社は福利厚生関係のフィンテック企業で,2020年に今まで投資していたフィリピンからインドネシアに転換し,2022年12月にインドネシア証券取引所にスピード上場を果たした。まさに海外日本人起業家のロールモデルである。

 参加者の陣容も様々で,AIやIT技術を駆使する最先端の起業家から,発展途上国で貧困是正にもがく社会起業家,日本食や日本文化の橋渡しを標榜する者,平和や環境を中心にSDGsをビジネスチャンスとする者,教育にかける者等様々な起業家が集まった。さらに,日本からの出席者も多く,東京,大阪,京都,名古屋,仙台などの大都市に加え,札幌,広島,岡山,沖縄等々から,既に海外ビジネスを手掛ける者,海外展開を夢見て模索する者たちも押し寄せた。

 特別講演には,元サッカー日本代表で起業家の本田圭佑氏と,国際政治学者の三浦瑠麗氏が登壇した。三浦氏については,日本国内では騒がれていることもあり,招聘に関してはWAOJE内での喧々諤々の議論が有ったという。巷のネット記事や噂より,現在の国際情勢と日本が置かれている状況と打ち手に関する三浦氏の学者としての知見を聞きたいというのが結論だった。三浦氏によれば,少子高齢化が進んだ日本は,低欲望社会に突入したとし,統計データを示しながらデータ分析の重要性を説き,古い産業の構造転換と新しい産業への投資の必要性を訴えた。本田氏は,「自分は日本一になれたという自負がある。しかし,メッシには,全然かなわなかった。これは,日本に生まれ17歳までメッシを知らなかったからだ。もし5歳から,メッシとともに世界で戦っていたら必ず勝てたと思う」という歯に衣を着せない言い方が世界から集まった日本人起業家達を煽った。世界でやれると信じれば,必ずできるということである。

 また,WAOJEの歴代の代表理事によるパネルディスカッションも興味深い。WAOJEの前身である「和僑会」の創設者である筒井修・特別顧問によるビデオプレゼンから始まった。「華僑やインドの印僑のように,世界中の日本人起業家が強く結びつくことが大切だ」と病床から,熱く語った。筒井氏は,香港名鉄の責任者として駐在後,太陽商事有限公司という商社を起業し成功した。2004年に『香港挑戦会』という形で始まり,のちに『香港和僑会』と名前を変え,中華圏,東南アジアに広がっていったとのこと。

 WAOJE初代代表理事は,中国北京の起業家,SAKO建築設計工社代表迫慶一郎氏である。迫氏は,2017年に筒井会長に推されて和僑総会の3代目の会長になった時に,世界に展開する組織を目指し,WAOJEに改名し,初代代表理事となった。

 WAOJE二代目代表理事は,カンボジア・キリロム工科大学学長猪塚武氏である。猪塚氏は,米国のユニコーンの55%は移民が作っているという現実を取り上げ,そのトップ10の国に日本が入っていないことを指摘した。「下り坂30年の日本にとってWAOJEという組織は非常に重要であり,WAOJEに頼らないと日本はどうにもならない時代が10年で来る」とその使命を語った。

 WAOJE3代目代表理事の小田原靖氏(パーソネル・コンサルタント・マンパワー社長)は,コロナ危機の中,代表理事を務めた。コロナパンデミックで世界が閉ざされ海外の日本人起業家にとって厳しいビジネス環境となった。海外に渡航できなくなり,WAOJE自体もGVFなどのイベントが軒並み中止となり厳しい状況に陥った。小田原氏によれば,各支部は,協力してオンラインを駆使して,支部同士の交流を行うなど,むしろ強い組織となっていったとのこと。ここで培った連帯意識によって,今回短期間開催のWAOJE GVFの成功につながったと述べた。

 2022年4月からの4代目代表理事は,ハーディング法律事務所代表理事ハーディング裕子氏である。ハーディング氏は,目下,理事数を削減し機動性を高める一方,新拠点の拡大などの戦略を進めている。4人の歴代の理事の共通する価値観は,「日本を出て海外を目指す」ということである。熱い議論が繰り広げられた。

 以上,世界日本人起業家達のフォーラム,WAOJE GVFから見いだせる一つの共通点は,「皆日本を見ずに世界を見ている」ということである。日本を飛び出して,世界に散らばってビジネスを起こし一定の成功をおさめ,そして,バンコクに集まった海外日本人起業家達は,相互に影響し合い大きなうねりを生み出していた。やがて,沈滞する日本を変える大きなエネルギーになる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2912.html)

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