世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2863
世界経済評論IMPACT No.2863

ゼミ生の卒業論文のテーマから感じる社会の変化

清水さゆり

(高崎経済大学経済学部 教授)

2023.02.27

 私のゼミでは毎年「卒業論文報告会」を実施している。現在の大学に着任後,ゼミ1期生が卒業するにあたって始めた当ゼミのイベントである。コロナ禍以降,卒業生の参加は見送ってきたが,今年度は卒業生にも久しぶりに参加してもらうことができて,とても楽しかった。

 卒業論文のテーマが10年程前とはずいぶんと変化した。以前は,日本企業の国際化や中小製造業の競争優位などといった私が強い関心をもつテーマを設定するゼミ生が多かったが,近年はICTやエンターテインメントをテーマとするゼミ生が増えてきた。また,リーダーシップやモチベーションをテーマとするゼミ生も毎年のようにみられるようになった。自身が部活やサークルのリーダーのポジションに就いたものの,メンバーが思うように動かない,なかなかうまくチームがまとまらない,期待した成果を出せない,あるいは,アルバイト先で社員や先輩と相対して,相手が何を欲しているのか,意図しているのかわからず困惑するといった事態に直面して,自分なりに解決策を見出そうとした経験から,マネジメントやリーダーシップに関心をもち,折角の機会だからということで卒業論文のテーマとするのだ。今年度は,リーダーシップとマネジメントの違いについて検討したいというゼミ生がいた。

 マネジメントとは,戦略による統御,経営システムによる統御,理念と人による統御の3つの経営の働きかけであり,リーダーシップとは,理念と人の統御のなかの1つの項目であるものの,思想や価値観といった理念で統御するのではなく,リーダーの属人的特性で集団を統御するためにリーダーが持つべき「力」である(注1)。さらに,リーダーシップはマネジメントの一部であるが,ほかのマネジメントの部分と「無関係ではないからといって,概念として混同してはいけない」(注2)と考えられている。

 先のゼミ生は,リーダーのポジションにいた数人の友人に聞き取り調査を実施して,リーダーシップとマネジメントの混同が見られることを確認した。大学の授業のなかで耳から入ってきた「マネジメント」や「リーダーシップ」ではなく,実地で感じた「マネジメント」と「リーダーシップ」から,マネジメントとリーダーシップとの間に概念的に重ならない部分があるのではないかという漠然とした違和感を覚え,「自分の頭」で「マネジメント」と「リーダーシップ」を理解しようと努めたのだと思う。

 リーダーシップやモチベーションといったテーマに関心をもつ学生は,ゼミ活動をはじめ,さまざまな活動に熱心に取り組んでいることが多い。いつの頃からか,就職活動のなかで「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」なるものをエントリーシートに記入するようになっていた。そのため(だけとは思わないが),学生はゼミ活動然り,部活・サークル活動然り,アルバイト然り,様々な活動に熱心に取り組む。しかし,それらの活動に取り組みながら,時に,なぜ先輩やアルバイト先の社員はこんなことをいうのか,なぜ仲間や後輩は思うように動かないのかといった,他人とのかかわりの中で行き詰まりを感じて,その理由を解明したいとテーマを選択したのだろう。

 先日,コロナ禍以降「ガクチカ」を書くことができない(書く内容がないという)学生が増加したこともあって,「ガクチカ」をエントリーシートに書かせないことを決めた企業が出てきたというニュースを見た。学生を取り巻く環境,社会が移ろうなか,ゼミ生の卒業論文のテーマもまた変化していくかもしれない。

[注]
  • (1)伊丹敬之・加護野忠男(2007)『ゼミナール経営学入門』日本経済新聞出版社 376頁
  • (2)同上 377頁
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2863.html)

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