世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2821
世界経済評論IMPACT No.2821

2023年夏,冬に7基は新規に再稼動するか

橘川武郎

(国際大学副学長・国際経営学研究科 教授)

2023.01.23

 2022年8月24日のGX実行会議で岸田文雄首相と西村康稔経済産業相が行なった原子力に関する発言が,一部のメディアで「原子力政策を転換したもの」ととらえられ,大きく報道されたことがあった。そこで岸田政権が原子力政策遅滞の解消に向けて2022年末までに政治決断が求められる項目としてあげたのは,

  • (1)次世代革新炉の開発・建設
  • (2)運転期間の延長を含む既設原子力発電所(原発)の最大限活用

などの諸点であり,あわせて

  • (3)原子力規制委員会の許可(原子炉設置変更許可済み)をえながら再稼働をはたしていない7基の原子炉の2023年夏・冬(2023年12月~2024年2月)以降の再稼動についても言及した。

 このうちとくに「政策転換」とみなされたのは,(1)の点であったが,この点については,2022年11月7日に『世界経済評論インパクト』No.2737として本欄に寄せた拙稿「次世代革新炉の何が有意義か」で,詳しく論じた。今回は,(3)の「7基の原子炉の2023年夏・冬以降の新たな再稼動」に目を向けよう。

 そもそも,これらの炉の再稼動に岸田政権がどうコミットするのかは,不明確である。

 原子力規制委員会の許可をえながら再稼働をはたしていない7基の原子炉のうち,東京電力・柏崎刈羽6/7号機は,東京電力の不祥事によって,規制委員会の許可自体が事実上「凍結」された状態にある。日本原子力発電・東海第二は,裁判所によって運転が差し止められている。残りの4基,つまり東北電力・女川2号機,関西電力・高浜1/2号機,および中国電力・島根2号機の4基は,運転再開に関する地元自治体の了解も取り付けており,再稼働へ向けての準備が進んでいる。ただし,女川2号機と島根2号機については,再稼働のために必要な工事が,2023年夏・冬までに完了しそうにない。したがって,柏崎刈羽6/7号機,東海第二,女川2号機,島根2号機の5基の2023年夏・冬における再稼動は,政府の強力なコミットがない限り実現しないことになる。では,岸田政権は,これら5基の再稼動に対して,どのようにコミットしようとしているのだろうか。肝心のこの点が,現時点では,皆目わからないのである。

 岸田首相は,2022年7月14日の記者会見でも,2023年1~2月の電力危機を乗り切るために,「9基の原発を再稼働させる」と胸を張った。しかし,これら9基はすでに再稼動をはたしたものばかりであり,点検,修理のために一時的に運転を停止していたケースはあったものの,2023年1~2月には稼働することがとっくに織り込み済みであった。首相は,それにもかかわらず,あたかも自分が動かすかのような言い方をしたのである。

 この事例が示すように,岸田政権は,原子力に関してポーズをとるきらいがある。「7基の原子炉の2023年夏・冬以降の新たな再稼動」を打ち出しても,そのためにどのような施策を講じるか具体的に示さない限り,「ポーズとり」と言われても仕方がないだろう。

 そもそも2022年8月に注目を集めた(1)の「次世代革新炉の開発・建設」の検討も,単なるアドバルーンに過ぎないのかもしれない。世論の反応を見ているのである。厳しい見方をすれば,本当のねらいは(2)の既設原発の運転延長にあるとも言える。いずれにしても,われわれ国民は,岸田政権の原子力政策について監視の目を光らせる必要がある。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2821.html)

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