世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2715
世界経済評論IMPACT No.2715

インバウンド再考

小野田欣也

(杏林大学総合政策学部 客員教授)

2022.10.17

 コロナ禍以来,旅行を中心とするサービス産業への支援が強化されている。

 海外からの入国者に対しては6月のパッケージツアー受け入れ再開に続き,本年秋より矢継ぎ早に外国人入国緩和が実施されている。まず9月7日より,①添乗員無しのパッケージツアー解禁(それまでは添乗員付きのパッケージツアー),②1日の入国者数の上限を5万人に引き上げ(それまでは1日2万人)に変更された。ただし査証(ビザ)は不可欠で,旅行業者などの受け入れ責任者が入国者健康確認システム(ERFS:Entrants, Returnees Follow-up System)に登録し,健康観察を義務づけていた。現在まだ入国者数などの公表がないため数値の増減は不明だが,基本的にパッケージツアーであるため,個人旅行を好む傾向の多い欧米人を考慮すれば,9月7日以前とあまり増加はないものと考えられる。

 本年10月11日よりコロナ禍に伴う出入国規制が大幅に緩和された。9月26日付,内閣官房・法務省・外務省・厚生労働省・国土交通省「水際措置の見直しについて」によれば,主に5点の水際対策緩和措置を講じている。すなわち,①入国者健康確認システムの申請不要,パッケージツアー限定を解除,②査証免除措置の適用再開(新型コロナウイルス蔓延以前は68カ国・地域からの短期滞在(90日以内)査証免除),③検査などの見直し(新型コロナウイルスの入国時検査は不要,ただし3回のワクチン接種証明書あるいは出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書は必要),④1日の入国者数上限を撤廃(10月10日までは1日上限5万人),⑤空港・海港における国際線受け入れの再開(現在受入れていない空港・海港については準備が整い次第,受け入れを再開)の5点である。

 日本政府観光局の訪日外客統計によると2019年に3,188万人を記録した外国人旅行者受入数は,2020年412万人,2021年24.6万人と激減した。現在確認できる最新の状況(2022年の1~8月合計)で82.2万人である。4月以降毎月,訪日外客数は10万人を超える。前年に比べると5~10倍に上るものの,コロナ禍以前の水準にはほど遠く,月別の人数でも2019年の6~7%でしかない。出国地別の統計では,コロナ禍以前に比べどの国からの入国者も激減しているが,特にアジアからの減少が厳しい。例えば中国の場合,2022年8月の入国者数は12,300人でベトナム,韓国,アメリカと並び1万人を超える。だが,2019年8月時点では約100万人の入国者数があり,隔世の感が強い。

 訪日外国人旅行消費額は2019年4兆8,135億円,2020年7,444億円,2021年1,208億円(観光庁推計)であり,2022年は1−3月期が352億円,4−6月期が1,047億円,上半期合計で約1,400億円程度,昨年年間を上回るものの,2019年上半期の6%程度にすぎない。

 出入国規制緩和と同月同日(10月11日)に全国旅行支援(東京都は10月20日予定)が開始された。今までは県民割支援が行われていたため,日本国内の旅行支援拡充にあたる。期間は当面12月下旬までで,延長も検討されている。その概要は,①旅行代金の割引率は最大40%で,交通機関と宿泊がセットになった場合は1日8,000円,それ以外は1日5,000円が補助,②地域で利用できるクーポン券が平日3,000円,休日1,000円補助,③以上を合計すると最大1日11,000円が補助される。いわば県民割支援が地域ブロック内(関東,近畿など)での旅行支援であったのに対し,対象を日本全域の移動に広げたのが最大の特徴である。2020年4月に開始され,同年末のコロナ感染拡大によって中止されたGoTo キャンペーンを想起させる。

 内外で同時期に旅行キャンペーンがおこなわれるのは,旅行代理店や交通機関などの現場で相乗効果を期待する向きも多い。ただし内外の効果の差は歴然で,その推計消費額を見ても,内外の比,訪日外国人旅行消費額/日本人国内旅行消費額を見ると2019年は22%であったが,2020年7.5%,2021年1.3%,2022年1~6月2.1%である。日本人国内旅行消費額は2019年に約22兆円にのぼるが,2020年は10兆円弱,2021年は9兆円余りで,2022年上半期(1~6月)は6.6兆円である。国内旅行は査証などのコントロールがあまりないため,感染防止による落ち込みはインバウンドほどではなかった。

 内外のキャンペーンが実施されても,2022年間の消費額や移動人数が確認できるのは統計的に来年3月頃であろう。コロナ禍以前の2019年の場合,訪日外国人旅行消費額の36.8%を中国が占め,台湾11.5%,韓国8.8%,香港7.3%などとなっている。上位4カ国の合計で約64%を占める。もっとも訪日外国人の場合,出国地の規制などに大きく影響されるのも事実であろう。日本政府観光局の9月21日付訪日外客数の発表資料では,例えば中国では中国政府外交部より海外旅行自粛の指示が出されており,台湾や香港でも不要不急の渡航先に日本が含まれている。日本でも水際措置の緩和に伴い,訪日外客に対するコロナエチケット(マスク着用の推奨,少人数会食など)をパンフレットなどで奨励しているが,外国人の場合は国内と異なり,いわゆる同調圧力が効かないことも事実である。例えばマスク着用ではエリザベス女王の国葬と安倍元総理の国葬がほぼ同時期に行われたが,ほぼ全てマスク無しと,ほぼ全てマスク着用の対比が印象的であった。

 旅行関連のサービス産業活性化は急務であり,日本人の国内旅行が大きく貢献するものの,訪日外客によるインバウンド消費は最近の急速な円安防止や経常収支改善にも大いに期待される。10月中旬以降の観光サービスの動向が注視される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2715.html)

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