世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2549
世界経済評論IMPACT No.2549

バイデン大統領,政権幹部を駐ASEAN大使に指名

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2022.05.30

 バイデン大統領は5月13日,ワシントンで開催中の米・ASEAN特別首脳会議の2日目の夕刻,駐ASEAN特命全権大使にヨハネス・エイブラハム(Yohannes Abraham)バイデン大統領副補佐官兼NSC(国家安全保障会議)首席補佐官・事務局長を指名したと発表し,会議参加者に本人を紹介した(注1)。エイブラハム氏は上院の承認を得て任命されるが,2021年1月のトランプ政権からバイデン政権への移行時の指導力が超党派で評価されており(注2),承認に問題はないとみられている。

 今回指名されたエイブラハム氏は,初めて政権中枢から送り込まれた若くて(注3),有能な大使である。この人選は,中国に対抗し,「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)および「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を推進していくうえで,バイデン大統領がASEANを重視する方針を改めて示している。

 バイデン大統領は昨年10月26日,ASEAN首脳会議(オンライン)に,米大統領として2017年以来4年ぶりに参加した。会議の冒頭,米・ASEANのパートナーシップ関係は「自由で開かれたインド太平洋の維持に必須であり,過去数十年に及ぶ安全保障と繁栄の共有の基盤になっていると述べ(注4),翌27日の第16回東アジア首脳会議(EAS)で「インド太平洋経済枠組み構想」を発表した(注5)。大統領方針に合わせて,カート・キャンベルNSCインド太平洋調整官兼大統領副補佐官は2021年12月,米国はASEANとの経済的,政治的かつ戦略的関与政策を格上げする計画で,これを実現することが2022年の最重要課題だとした(注6)。バイデン政権のこうした方針は,この5月のバイデン大統領の訪日によってさらに前進した。

 U.S. Mission to ASEANのホームページによると,米国がASEANに大使を送ったのはブッシュ(子)政権下の2008年。オバマ政権下の2010年6月にASEAN諸国外では初めて代表部をジャカルタに置き,駐ASEAN大使を任命したが,いずれも彼らは政権中枢にいたわけではい。トランプ時代は大使の指名はなかったため,今回の指名は6年ぶりである(現在の代理大使はジャカルタ駐在の Kate Rebholz)。

 バイデン大統領は上記の特別首脳会議の挨拶で,エイブラハム氏を「私の最も密接なアドバイザーのひとり」と紹介し,「彼は私がどう考えるか知っているし,私のことを知りすぎている。だからちょっと怖いくらいだ。さて冗談はさておき,彼は完全に有能で,私と私の政権を代弁できる人物であり,信頼できる代表だ」と述べている。

 エイブラハム氏はイエール大政治学部,ハーバード大法学部卒。大学卒業後,2008年の大統領選挙運動に加わり,オバマ氏のバージニア州勝利に貢献した。オバマ政権ではオバマケアのなど重要施策の実現に尽力し,オバマ側近としての活躍ぶりに注目していたバイデン副大統領(当時)は2020年の選挙で当選すると,トランプ大統領からの政権移行チームの事務局長に抜擢し,高い評価を得た。バイデン政権発足と同時に大統領副補佐官として,NSCの首席補佐官兼事務局長を務めている。

[注]
  • (1)5月13日の発表(The White House, President Biden Announces Key Nominees)では,駐ASEANのほか駐ハンガリーなど4人の大使と5人の政府高官が指名されているが,同日のバイデン大統領の挨拶(Remarks By President Biden at the U.S.-ASEAN Special Summit)からみると,エイブラハム指名の人選はバイデン大統領肝煎りの米ASEAN特別首脳会議開催と密接に関係している。
  • (2)The Washington Post, May 13, 2022. Biden nominates top national security staffer as ASEAN ambassador.
  • (3)公式の経歴が未発表のためネットで検索したところ,1985年1月5日バージニア州生まれ,37歳(ただし正確さの保証はない),未婚,エチオピア系二世。
  • (4)White House, October 26, 2021, Remarks by President Biden at the Annual U.S.-ASEAN Summit.
  • (5)本コラム(2022年1月31日付No.2407「米国のインド太平洋経済枠組み(IPEF)構想」参照。
  • (6)Inside U.S. Trade, December 3, 2021, page 1, NSC’s Campbell: ASEAN work among ‘most important initiatives’ in 2022.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2549.html)

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