世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2421
世界経済評論IMPACT No.2421

中国の経済発展と共同富裕の矛盾

中島精也

(福井県立大学 客員教授)

2022.02.14

 秋に開かれる第20回中国共産党大会は今年最大の政治イベントの1つである。今年の党大会は「第1の100年目標(党創立から)」である「小康社会」の完成を踏まえて,「第2の100年目標(建国から)」である社会主義現代化国家の全面的建設,中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現に向かう起点となる重要な大会と位置づけられる。人事面では習近平が総書記として3期目に入るのは確実とみられるが,共産党中央委員会主席ポストを復活して終身トップの座につくことも十分に考えられる。

 いずれにせよ今年の党大会は習近平独裁体制を不動のものにすることが目的であり,それは昨年11月に開かれた中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議(六中全会)で採択された「歴史決議」によりうかがい知ることができる。六中全会コミュニケによれば,鄧小平の改革開放路線の成功により,小康社会に近づいた中国は,2012年以降,中国の特色ある社会主義が新時代に入ったとの認識に基づき,習近平時代がスタートしたとしている。

 「習近平による中国の新時代の特色ある社会主義思想」は毛沢東思想,鄧小平理論,「三つの代表」重要思想(江沢民),科学的発展観(胡錦濤)の堅持と歴史総括から生まれたとしている。小康社会の実現により長い間,中国社会の矛盾であった貧困は解決されたが,経済発展の結果,国内の格差や政治腐敗といった新たな矛盾が生まれた。これらの矛盾を克服し,更に米国を中心とする西側に対して経済,軍事,技術面で優位に立ち,中華民族の偉大な復興を実現するのが新時代の使命と考えているようだ。

 六中全会のコミュニケは習近平を党の「核心」に据え,習近平思想の指導的地位が確立されたことは全党,全軍,全国の各民族の共通の願いが反映されており,中華民族の偉大な復興の歴史プロセスの推進においても決定的な意義を持つとしている。習近平の実績として,綱紀粛正で党のガバナンスを根本的に改善し,反腐敗闘争を成功させ,経済力,科学技術力が飛躍的に向上して「質の高い発展」の道を歩み始め,人民軍を新時代に相応しく再構築し,「一国二制度」と祖国統一の推進のため法に基づく香港統治を推進し,台湾独立と外部勢力の干渉に反対して両岸関係の主導権を確保し,外交面では国際的影響力が顕著に高まり,強い中華民族へと飛躍した,と習近平を称賛している。

 さて,独裁体制を不動のものとし,建国100年の社会主義現代化国家の全面的建設と中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現に邁進する習近平だが,その野望を実現する鍵となるのが「経済発展の持続」と「共同富裕」の両立である。しかし,幾つかリスクを指摘しておかなければならない。先ず,「経済発展の持続」に関しては労働力や資本よりも全要素生産性(TFP)を重視するイノベーション駆動型の経済成長を実現することが重要であり,そのためには現在2〜3%の全要素生産性の成長寄与度を引き上げる必要がある。

 しかし,知的財産権の侵害や人権問題等で欧米諸国の対中姿勢が一段と厳しくなっており,企業,留学生,研究員を介した外国技術の入手は難しくなってきている。更に,西側諸国で中国を除外した新たなグローバルサプライチェーンの構築や先端技術商品の対中輸出規制強化も予想されるので,技術面での中国の孤立化が進む可能性が高い。中国は最早海外の技術に依存した成長は望めないものと思われる。

 よって,中国は独自の技術開発でこの障壁を乗り越える必要があり,その推進役として期待されるのがアニマルスピリッツに溢れた起業家,先端企業の富裕層である。しかし,「共同富裕」の名の元に,①富裕層への増税による所得再分配,②賃金引き上げによる労働分配率の変更,③寄付による社会への利益還元の強制,が実施される方向にある。これでは利益インセンティブで動く個人,企業の投資意欲が阻害され,資本蓄積の停滞やイノベーションの低下をもたらすリスクが大きい。

 中国の起業家からは共同富裕は消費市場の創出にマイナスで,投資が手控えられ,イノベーション駆動型の成長は望めない,よって資産,事業の海外移転を密かに考えているとの声も聞こえてくる。共同富裕という社会主義への回帰は若き中国の起業家にとって不安の種であると同時に皇帝化を目指す習近平の夢を壊すことにもつながりかねない。「経済発展の持続」と「共同富裕」の両立は言うは易く行うは難しだ。権力を不動のものとし,世界覇権に向かって突き進む習近平の中国はまさに正念場を迎えようとしている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2421.html)

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