世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2360
世界経済評論IMPACT No.2360

メタバース:あつ森を超えられるか?

鶴岡秀志

(信州大学先鋭研究所 特任教授)

2021.12.06

 FB(メタ)のザッカーバーグ氏が提唱したメタバースが投資市場で大盛り上がりである。我国メディアの解説はWEBから引っ張り出した表面的な情報をチャッチャッとまとめた程度という,昨今の「裏取り」能力の低さを表していて,一事が万事,一部金融関係ストラテジストが投資銘柄として囃し立てるだけになりそうな懸念がよぎる。日経11月26日の「熱狂メタバース」はコメンテーターの話をまとめただけの付け焼き刃記事であり失望した。一流経済誌としてこの準特集的な記事は情報収集・分析がお粗末であり情けない限りである。以前の勤務先が日経本社の隣であったので広報からの指示で2度ほどナノテクについて日経のインタビューを受けたが,記者の的はずれな質問と一方的見解に呆れて広報に苦情を言ったことを思い起こした。この11月26日付記事を日経の能力を示すものというつもりは無いのだが,我国がこの30年間,各分野でいまいち発展できない憂鬱の根っこを見たような想いに駆られた。我国の一流経済紙と自負するなら,権威っぽい人の意見を切り刻んで掲載するのではなく自らも専門家や新進ベンチャーと対峙できる程度まで勉強して欲しい。

 日本橋にオープンした近未来のアバターを具現化したCafé「DAWN」(WEBで知りました)のことを「世界経済評論」2022年3/4号に掲載予定のコラム用に執筆していたところ,メタバースのチャット発表が登場した。この拙著コラムではメタバースの究極の世界と言える電脳宇宙ボビバースを舞台にした「我らはレギオン」(ハヤカワSF)の紹介もしているので,是非御一読の上メタバースの真髄についてご理解いただきたい。Café「DAWN」はメタバースに先行する電脳技術実装であることから,常日頃の「我国は遅れている」という思い込みを切り替えていただきたい。CaféをサポートしているNTTを含めて我国のベンチャーや企業の先進的活動,世界をリードする近未来のモノとコトに目を向けて欲しい。世界に先駆けた技術の「蕾」もそれだけでは花開かない。メディアの囃子詞に惑わされず,経済の専門家の方々や社会の応援があってこそ大きなイノベーションに繋がり我国の産業経済を活性化させるだろう。

 良いこともある。メタバースのおかげでVRの先にある電脳ワールドの説明が一語で可能になった。さて,昨年流行ったニンテンドーの「あつ森」を思い出して欲しい。この複数でプレーできるゲームの登場人物をプレーヤーのアバターに変更すれば人々が電脳仮想空間の場で集うことができる。コロナ禍中の外出制限の期間にゲームの中で思い思いの場所を創造してイベントを開催したことも数々報告されたように,メタバースの概念と基本的な枠組みはあつ森の中に包含されている。プレーヤーはメディアがメタバースと騒ぐ前に,さっさと「あつ森バース」を構築している。すなわち,メタバースをいかにも最先端と紹介するメディア編集者は何も解っていないのである。そのため,「前例」の如く官民メディアの守旧的グループがつるんで市場開拓の主導権を握ると,せっかくあつ森で一歩前に出ている電脳仮想空間ワールドがつまらないもの,世界的競争に負けてしまうものに変えられてしまう。何故か?

 CGを使用したバーチャル・オフィス・ソフトはマイクロソフトのMESH(まだ不自然)など2020年のコロナ禍でいくつかベータ版が登場している。この雨後の筍のような状況の中で,前例主義が大好きな官庁や企業経営者とそれに追従するメディアは米国・イスラエルIT企業のアイデアを雛形として批判を受けないがツマラナイ日本版メタバースを作るだけであろう。まず稟議を通して外部識者(いつもと同じオワコン集団)と業界有名人(先端であることの言い訳)からなる審議会や専門家会議を編成し,人権と法律に則った役所が作成した報告書(前例優先骨抜き)で予算が編成される。間違ってもあつ森やFORTNITE等のクリエーター,プログラマー,そしてユーザーオタクは参加しないオワコン実施案ができるのである。この筆者の予想は間違っているだろうか? いっそのこと,国と大企業は奇人変人,反ダイバーシティーであっても,アキバ的,コミケ的なクリエーターやオタクが存分に活躍できるプラットフォーム整備に徹することが必要である。

 他方でメタバース構築には半導体開発やプログラマー集団,高性能サーバーとPCが必要なので個人的才能だけでは達成できない。さらに通信や電源インフラも充実していなければゴールにたどり着けない。ニンテンドー,ソニー,NTTは資本力やリソースを抱えているのでそこそこの競争力を保有するがGAFA(GAMA?)に比べると遥かに体力が劣る。我国がこれらの巨大IT企業に立ち向かうには彼らと同じアプローチでは太刀打ちできない。むしろ,Café「DAWN」やあつ森のような先行事例を活用して,レッドオーシャン的な2D画像の中のバーチャルではなく既存のロボットをアバターとして使った実社会3D電脳空間を構築することを目指してみてはどうだろうか。開発に時間がかかりそうな3Dホログラムが実用になった暁にロボットと併用すればメタバースに対抗する虚像と実体両用のものができる。3Dホログラムについては「世界経済評論」2022年3/4号の拙著コラムをご参照いただきたい。

 21世紀に入ってこれまでの間,国や主要企業のイノベーション創出プログラムはどこかで既にそこそこ成功している「前例」を雛形にしているものがほとんどと言っても差し支えない。これからは目標に向かって,その手前のイノベーションとまでは言えないが進化している技術を育成して羽ばたかせる,Leapfrog的進化推進をしなければ今までの繰り返しになる。文系と理系,工学と金融経済といった垣根を越えてゲームと通信を結びつけ,Café DAWNの拡大版アバター実証を日本橋コレドや銀座デパートで実施するプロジェクトをやってくれる方が登場しないだろうか。触感センサー(「世界経済評論」2022年3/4号,拙著コラム参照)を実装した,暖かく柔らかい握手ができる手を持つアバターが働くCaféを目指せば必要技術分野も広がり,世界から注目を浴びてコーヒー一杯¥980でも集客できると思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2360.html)

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