世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2316
世界経済評論IMPACT No.2316

国際ビジネス環境に対する懸念

真田幸光

(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科 教授)

2021.10.18

 日本政局は動き,岸田内閣の成立後,直ぐに解散総選挙という政治日程となったが,いずれにしても,日本の政治に向けられている関心は,「新型コロナウイルス対策は今後,どのように展開されるのか」「抜本的な景気対策は具体的に示されるのか」「米中覇権争いの中で,日本の対中政策姿勢は如何なるものになるのか」という三点に集約されているものと考える。

 これらの点は,いずれも国際情勢の影響を受けることは必至であり,特に,経済に関しては,世界的なビジネス環境の変化の影響を強く受ける。

 そこで,現行の国際ビジネス環境に対する懸念が強まる中,今回は,そうした懸念の背景となっているいくつかの点に焦点を充て,概観してみることとした。

 現行のビジネス世界には,

  • *人材不足
  • *半導体不足
  • *コンテナ不足,物流費の高騰
  • *食料価格高騰
  • *鉄鋼不足と鉄鋼価格の高騰
  • *原油価格の高値傾向
  • *こうしたことに伴うインフレ懸念

などの課題が山積,更に,国際金融市場では,「中国本土の恒大集団の破綻懸念から発生する国際金融市場の不安定さ」なども指摘されており,「世界の経済成長見通し」が下方修正される傾向にある。

 こうした中,日本経済に関しては,「食料,原材料,エネルギー」という日本経済が円滑に運営されていく為に必要なものの不足と価格高騰,そしてそれらを運ぶ物流費の高騰が日本経済を痛めるのではないかとの懸念が生まれ,これまで,「比較的安心安全の通貨である円」と言われてきた,日本の法定通貨・円に対する国際金融市場の信認が落ちるかもしれないとの危惧が生まれ,「円の基軸通貨・米ドル」に対する為替レートも弱含みで推移する可能性も出てきていることから,「輸入インフレ発生の懸念」も懸念事項の一つに加わり始めている。

 これに,もし,更に,日本円の長短市場金利が上昇するような傾向が見られれば,国内金融市場の混乱も発生しかねない。

 即ち,世界のビジネス環境は今,世界にとっても,日本にとっても,決して良い状況にはないと考えておくべきなのである。

 また,だからこそ,日本政府は今,岸田首相がコメントしていた通り,抜本的な経済対策を確立,経済成長を誘引し,日本経済の規模そのものを拡大した上で,分配に努めて,景気拡大をさらに刺激していくべきであると筆者は考えている。

 そこで,次に「食料価格」と「中国本土の電力不足と世界経済」に関する筆者の見方を述べたい。

[食糧価格]

 国連の食糧農業機関(FAO)が10月7日に発表した本年9月の世界食料価格指数は平均130.0ポイントと,8月の128.5(127.4から上方修正されている)から上昇し,2011年9月以来の高水準となっている。

 そして,食料価格上昇は2カ月連続であり,特に穀物と植物油の価格上昇の影響を受けた上昇とも言える。

 また,前年対比では32.8%上昇している。

 品目別では穀物価格指数が前月対比2.0%上昇,植物油価格が1.7%上昇しており,穀物の中では需要が力強かった小麦が4%近く上昇したと報告されている。

 そしてFAOはまた,今年の世界穀物生産が過去最高の28億トンとなる一方で,消費がそれを超える28億1100万トンになる見通しであるともコメント,食料価格の更なる上昇懸念も出ている。

 こうしたことからすれば,当然に,資金余力の少ない「庶民」の生活が懸念される。

 筆者は,やはり日本政府には,「一旦,消費税は全て0%にしていただく」ということを,もしこれがどうしても難しければ,せめて,「生活必需品の消費税だけでも一旦0%にしていただく」ということを切にお願いしたいと考えている。

[中国本土の電力不足と世界経済]

 中国本土に於ける最近の深刻な電力不足が指摘され始めている。

 そして,その影響を勘案し,海外の投資機関などは中国本土の経済成長率見通しを相次いで下方修正し始めてもいる。

 例えば,米国の投資銀行であるゴールドマン・サックスは,中国本土の今年の経済成長率見通しをこれまでの8.2%から7.8%に下方修正し,日本の野村証券も8.2%から7.7%に下方修正している。

 更にまた,世界的な格付け機関であるフィッチも中国本土の今年の経済成長率見通しを従来の8.5%から8.1%へとするなど,各機関とも軒並み,中国本土の経済成長見通しを下方修正してきているのである。

 そして,中国本土で深刻な電力不足が続いている影響で,9月中旬から中国本土の全国31の省や直轄市のうち20カ所以上で電力の供給を減らすか,あるいは完全にストップする限電令が出されたとも報告されている。

 これに伴い,遼寧省をはじめ,中国本土全国各地で広範囲な被害が発生し,その実態も次々と報告されてきた。

 ブルームバーグ通信は,筆者には,ちょっとシンボリックに報道し過ぎているとは感じているが,「中国本土の農家では農業機械の使用が難しくなり,収穫ができなくなっている」と報じている。

 また羊毛工場などでは生産を最大で40%減らしたとも報道されており,日本や欧米の機関だけでなく,中国本土の経済メディアである「第一財経」でも,「電力使用量が多い東北3省(吉林省,遼寧省,黒龍江省)で原材料生産や加工工場が稼働を中断した」と報じた。

 江蘇省では米国のクァルコムなどから半導体の供給を受け,これを最終製品に組み立てる世界最大の半導体後工程メーカーの日月光が一時,工場の稼働をストップし,アイフォンを組み立てている和碩も電力使用を減らした為,生産に支障が出ていると報道されている。

 中国本土政府当局は最近の電力不足で市民が不安を抱き始めていることから,山西省や内モンゴル自治区など自国の炭鉱に大規模な増産を命じ,海外からの石炭輸入を最大限増やすなどの緊急対策に乗り出してはいる。

 中国本土政府などが明らかにしたところによると,中国本土の李克強首相は国務院常務会議で,「社会運動と同じような脱炭素の動きから抜け出さねばならない」と訴え,地方政府が炭素削減目標を達成する為,厳しい限電令を続けていることを批判,緩和するように促している。

 また,豪州との関係悪化による,化石エネルギーの豪州からの輸入に滞りが出ていることもこうした電力不足の背景にあると見られている。

 いずれにしても,中国本土の電力不足による影響が世界に広がることへの懸念も徐々に広がっており,「中国本土との交易が大きい台湾や韓国などの隣国が特に大きな影響を受けるだろう。オーストラリアやチリのような金属の輸出国,更にはドイツなど中国本土との主要な貿易相手国も中国本土経済の悪化で被害が発生しかねない」との予想も出始めている。

 もちろん,日本への悪影響も懸念される。

 こうしたことを受けての中国本土政府の動向,そして,国防にも影響するエネルギー問題に関する人民解放軍の基本対応姿勢もフォローすべきである。

 混沌の世界ビジネス環境が垣間見られ,筆者の懸念は深まる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2316.html)

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