世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4015
世界経済評論IMPACT No.4015

南北関係について

真田幸光

(嘉悦大学 副学長・愛知淑徳大学 名誉教授)

2025.09.29

 国際機関である国連の安全保障理事会(安保理)議長国となっている韓国は,現在,国連大使が空席の為,キム・サンジン次席大使が本年9月の会議日程を公表した。国連本部で行われた会見の内容を見ると,9月には北朝鮮関連の問題を扱う会議は1件も予定されていなかった。

 これを異例と感じた記者団から北朝鮮関連の質問が相次いだ。例えば,「ウクライナ戦争で北朝鮮がロシアを軍事面で支援する問題は安保理で議論されないのか?」との質問に対して,キム次席大使は,「現時点で北朝鮮問題は案件となっていないが,北朝鮮が挑発を強行すれば議論は確実に行われる。北朝鮮は間違いなく韓国にとって最優先の課題の一つである」という,いささか中途半端な回答をした。また,別の外信記者が改めて,「北朝鮮関連の会議は本当にないのか?」と質問すると,キム次席大使は,「9月には計画されていないが,弾道ミサイルなどによる挑発があれば会議を行う準備は出来ている」と答えていた。

 ところで,国連安保理の議長国は,安保理が行う全ての公式会議はもちろん,北朝鮮の核問題,ガザ地区問題,ウクライナ戦争など今も世界で議論されている問題で追加の緊急会議を招集する権限も持っている。他の理事国が追加の会議を要請した場合もスケジュールなどを考慮した上で,如何なる形式で会議を行うかを決めることが出来る立場にある。

 韓国は2023年8月には,安保理で6年ぶりに北朝鮮の人権問題を扱う会議を招集し,昨年6月にも,脱北青年のキム・グンヒョク氏を招いて北朝鮮の人権問題の実情を聞く会議などを開催していた。それは韓国にとって国連安保理は北朝鮮の核問題,ロシアに対する軍事支援,人権問題などを包括的かつ効率的に国際社会に伝えられる重要な場であったからと見られている。当時,韓国政府は世界で北朝鮮の人権問題を訴えることの重要性を何度も強調していたのである。

 キム次席大使は昨年,韓国が安保理議長国となった際,「北朝鮮の人権問題改善に向け,引き続き,努力すべきと考えるわが国(韓国)の立場は変わらない。人道支援は北朝鮮住民の苦痛を和らげる重要な手段の一つである」との見解を示しているが,これは,「北朝鮮の人権問題が話し合われた事例はあるのか」との質問に対する回答でもあった。

 更に,「北朝鮮の人権問題は副次的なテーマか?」との質問に対しては,「私はそうは言いたくないし,北朝鮮の人権問題解決に向け,引き続き努力が必要と考える韓国政府の立場は変わっていない」と答えていた。

 韓国の国連代表部は各国首脳らが出席する高官級週間に,「国際社会の平和と安定の維持」というテーマで人工知能(AI)に関する公開討論会を開催すると発表していた。

 この会議はイ・ジェミョン大統領が主催した。ある外信記者の,「北朝鮮によるAI使用も議論の対象か?」との質問にキム次席大使は,「北朝鮮のような特定の国に議論の幅を狭めて扱うことを韓国は意図しておらず,もっと幅広い文脈で進める予定である」と答えていた。

 如何であろうか? 韓国のイ・ジェミョン政権は本当に北朝鮮の核や人権問題に関して国際機関である国連で真っ向から取り上げていく意思があるであろうか? 微妙な動きを示す韓国政府である。

 筆者は,こうした動きを見るにつけ,イ・ジェミョン政権の最大のミッションは,「北朝鮮との関係改善から南北統一に向けた基盤を構築することにある」と感じている。

 イ大統領は9月23日,就任後初となる国連総会での一般討論演説に臨み,北朝鮮との敵対関係を終わらせる為の,対話を含めた包括的な政策構想を示している。即ち,「交流(exchange)」,「関係正常化(normalization)」,「非核化(denuclearization)」を柱とし,非核化については段階的に解決する考えを述べ,国際社会に協力を求めたのである。

 尚,「非核化」に関しては,北朝鮮が受け入れる可能性は少なくとも今は全くない一方,国際社会の理解を得る為には必要であるとの判断があって,一応,加えられたものと見られている。

 更に,イ大統領は,北朝鮮は核兵器を搭載することが可能で,米国本土をも射程に入れることが出来る大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発がほぼ最終段階にあると述べている。これは,イ大統領が9月25日にニューヨークでの国連演説の中で示した見解である。

 イ大統領は,「北朝鮮に残された唯一の課題は再突入技術であるが,これは近いうちに解決される可能性が高い。」とも述べている。但し,だから北朝鮮を警戒せよ,北朝鮮に対して圧力を加えよとの姿勢は基本的には示していない。イ政権の対北外交姿勢を引き続きフォローして行きたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4015.html)

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